ワクチン接種がはじまったものの、いまだ世界を震撼させ続けている新型コロナウイルス感染症。この一年、飲食業界を中心に経済は大きな影響を受け続けた。それは、アパレル業界も同じだ。在宅勤務やオンライン会議の増加で働き方が変わり、スーツをはじめとする外出着が売れなくなったという声を耳にする。では、美容業界はどうか。

 

2021年2月の大手化粧品メーカーの発表によれば、グループ全体の売り上げが、前年より約19%減少し、最終損益として116億円の赤字だという。もちろんこれには、外国人旅行者による爆買いの大幅減少も影響しているだろう。だが、それもひっくるめて新型コロナウイルス感染症の影響が大きかったと言わざるを得ない。

 

売上げが大きく減少した美容業界は、大きく二つの戦略で業績回復を試みている。

 

一つは、マスクを着けた生活が続くことを視野に、肌荒れを防ぐスキンケア化粧品を投入している。男女を問わず、マスク生活によって肌荒れで悩む人は多い。個人的には入念な洗顔と保湿、それから日焼け対策を欠かさないことをすすめたい。

 

もう一つは、男性用化粧品の拡大である。オンライン会議の増加で自分の顔を見る機会が増え、モニターに映る顔まわりの身だしなみへの関心が、男性のあいだで高まっているという。そのため、大手百貨店のなかには紳士服売り場を縮小し、男性用化粧品コーナーを広げたところまででてきたという。しかしこれは、かなり面白い。

 

というのも、女性と話をすると、オンライン会議に増加によってむしろ化粧をしなくなったという声を聞く。なぜなら、オンライン会議アプリのフィルター機能を使えば、化粧をしなくても相手に映る顔は、化粧をした顔だからだ。その一方で、これまでオフラインの世界では化粧をしなかった男性が、オンラインの世界では実際に化粧をしはじめている。コロナ禍による新生活で、化粧をするかしないかの規範が変化し、男女を問わず自由な選択となっている。

 

ジェンダーフリュイド(gender fluid)という言葉がある。ジェンダー(性自認)が固定化されているのではなく、流動的で変化するという意味で、2015年頃から注目されている。

 

What is gender fluidity?

Let’s define a few terms. Cisgender means a person’s gender identity matches the sex — female or male — designated on their original birth certificate. Gender fluidity refers to change over time in a person’s gender expression or gender identity, or both. That change might be in expression, but not identity, or in identity, but not expression. Or both expression and identity might change together.

 

For some youth, gender fluidity may be a way to explore gender before landing on a more stable gender expression or identity. For others, gender fluidity may continue indefinitely as part of their life experience with gender.

 

Some people describe themselves as “gender-fluid.” As an identity, it typically fits under the transgender and nonbinary umbrella, which applies to people whose gender identity doesn’t match the sex assigned to them on their original birth certificate. (Nonbinary means a person’s gender identity doesn’t fit into strict cultural categories of female or male.)

 

Not everyone who experiences changes in their gender expression or identity identifies as gender-fluid. Nor does everyone desire gender-affirming medical treatment to change their body to better align with their gender identity.

 

Harvard Health Blog

 

アパレル業界では、もはや衣服の男性はメンズ、女性はレディースという区別がなくなっている。それは、ユニセックスかジェンダーレスかでもなく、性別の垣根を超えて着たいと思う服が求められているということを意味する。

 

『暮しの手帖』を創刊した花森安治は、男性用とわざわざ言わなくても男性が使用する化粧品は昔からあったと書き残している。新型コロナウイルス感染症にともなう男性の化粧への関心の高まりは、美容業界のジェンダーフリュイド拡大に貢献するかもしれない。