『竹取物語』といえば誰もが知っている、あの「かぐや姫」が登場する物語です。この物語を書いた作者も書かれた時期もよくわかってはいません。紫式部が書いた『源氏物語』に「物語の出で来はじめのおやなる竹取の翁」と『竹取物語』のことが登場するので、『源氏物語』が書かれるよりも前にはすでに成立していたと考えられています。あの紫式部が『竹取物語』を読んでいたと考えるだけで、なかなか胸が熱くなります。

 

竹取物語・かぐや姫の髪結い

さて、この『竹取物語』には次のような一文があります。それは

「この児、養ふほどに、すくすくと大きになりまさる。三月ばかりになるほどに、よき程なる人に成ぬれば、髪上げなどさうして、髪上げさせ、裳着す」

これは、この子は、育てているうちに、すくすくと大きくなりました。3ヶ月ほどになると、普通のひとと同じようなちょうどよい大きさのひとになったので、髪上げなどをさせて、髪を結い上げさせ、裳を着せました、という意味です。

 

かぐや姫といえば、竹から生まれたので、とても小さかったわけです。ですが、育てているうちに3ヶ月ほどたつと、人並みの大きさに成長しました。

 

そこでお爺さんは、かぐや姫を髪を結い上げさせ、裳という腰から下の部分をおおう衣服を着せたというんです。これはいわば、かぐや姫が立派な大人の女性に成長したことをあらわしています。

「髪上げ」は竹取物語の時代からあった

前回、元服(=成人)するときは、女性は下ろしたままの髪を束ねて髷に結う儀式をおこなったことを紹介しました。この『竹取物語』が書かれた時代でも「髪上げ」という髪の結い上げが、成人儀礼としておこなわれていたんです。ですが、ただ大人になる儀式として、髪を結い上げたわけではありません。

恋愛と髪が密に関わっていた奈良・平安時代

髪上げは、成人と同時に結婚することも意味しました。奈良時代や平安時代に成立した歌集や物語を読んでみると、恋と髪が密接に関係していることがわかります。

平安時代初期に成立したといわれている『伊勢物語』には、

「くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずして誰かあくべき」

という歌が収められています。これは現代語訳をすると、「髪上げをすべき結婚の時期が近づいたけれど、夫と定めていたあなた以外の誰のために髪上げをしようか」ということになります。

 

じつは髪上げをする場合、女性は夫となる男性に髪を結い上げさせたんです。直接的には、髪上げは結婚を意味します、ですが、意味的には髪上げは処女を男性に捧げるのと同じです。

 

髪上げというのは、ものすごくセクシーでエロティックなことだったんです。では、もしその女性が髪が短くて結えないような長さだったらどうするんでしょうか。じつは、もし髪上げに十分なほど髪が伸びていなければ、結婚することはできません。そのときは、髪上げが可能な長さになるまで、待たなくてはいけなかったんです。

うなじに惹かれるのは今も昔も同じ?

現代でも、意外と若い男性でも女性の「うなじ」にそそられるというひとはけっこういます。うなじが見えるのは、髪をアップにしているということ。つまりは、結い上げているわけです。結い上げた髪にエロティシズムを覚えるのは、昔も今も同じだとすると、人間の心理はたかだか1,000年くらいでは変わらないということなんですね。