アジア初の開催だったラグビー・ワールドカップ日本大会。大会期間中、各国代表チームたちは、日本各地で地域の人びとと交流をした。スポーツによる親善は、日本と世界、そしてラグビーを身近なものとした。だがその裏で、やや水を差す出来事があった。イレズミである。

 

ラグビーの国際統括団体ワールドラグビーは、ワールドカップに関する情報サイトで日本について紹介していた。そのなかではイレズミの項目もあり、ヤクザを連想させるので隠したほうがいいと解説していた。

 

ラグビーが盛んなサモアやニュー人ランドでは、太平洋諸島の文化を背景に、イレズミは一般的であり、一定の年齢になると若い男子がイレズミを入れることは、珍しくない。

 

ところで、2015年の観光庁による調査では、全国の過半数の旅館やホテルが、イレズミのある人に対して入浴お断りとしている。また一割程度がシール等で隠すことを条件に、入浴許可としている。そして、今回のワールドカップではイレズミのある外国人観光客に温泉を楽しんでもらおうと、「みなさんと銭湯には入れて嬉しいです。」という文字とゆるキャラによる「おもてなシール」を製作し、配布した温泉地があった。これが、差別ではないかと指摘されたのだ。

 

幸いに、ニュージーランドの代表チームをはじめとする多くのチームが、イレズミへの禁忌を日本文化として受け止め、国際問題とはならなかった。

 

そもそも、イレズミの歴史は古い。日本では、「魏志倭人伝」にイレズミの存在が記述されている。当時は、魔除けとしておこなわれていた。それが大陸の影響を受け、『日本書紀』では、刑罰としてイレズミがおこなわれるようになる。江戸時代でも、犯罪を抑制する目的から罪人にイレズミをいれた。罪人がイレズミを隠すために、より大きなイレズミを上からすることもあった。そのため幕府はイレズミの取り締まりをおこなった。明治になっても、禁じられた。法的に規制がなくなったのは、第二次世界大戦が終わってからだ。

 

長い歴史のなかでイレズミは日本で禁忌されてきた。これが、日本人のイレズミ観を形成している。だが、はたしてそれは日本文化といえるのだろうか。

 

外見は個人だけのものではなく、社会性が非常に高い。イレズミへの禁忌を文化とするなら、イレズミ自体も文化である。あらためてイレズミについて、じっくり考えたい。