ファンデーションといえば、化粧の基礎となる下地用クリームを意味する。そして、一般的には自分の肌に近い色のものが用いられる。

 

昔、日本には“肌色”という色があった。JIS(日本工業規格)の色彩規格ではうすい黄赤に相当するが、平均的な日本人の皮膚の色をイメージの色として、色鉛筆などの色名として表記されていた。だが2000年頃を境に「三菱鉛筆、サクラクレパス、トンボ鉛筆の大手三社が、色鉛筆や絵の具、クレヨン、マーキングペンなどの『はだいろ』を『うすだいだい』に呼称変更」している(『神戸新聞』2006年5月31日)。その理由は、たとえ日本人であっても肌の色は一定ではないからだ。

 

ダイバーシティ化がすすむ現代において、人それぞれ違う肌の色を、“肌色”という一つの色で決めつけることは、その色とは違う肌の色をもつことはおかしいという印象を、人びとに与える。そのため、消費者から差別的だと批判があがったことにより、業界団体が人種問題への配慮から“うすだいだい(=ペールオレンジ)”と名称を変えるにいっている。

 

■時代を映す肌色

ところで、化粧において、ファンデーションは肌の色を補正するだけではなく、肌そのものの色を流行に近づける働きをもっている。“肌色”で時代の様相をうかがうこともできる。

 

例えば、若者の化粧に注目すると、現代では黄色みが少し強めな、ナチュラルな“肌色”が求められている。だが、好景気にわいたバブルの時代は少しピンクかかった“肌色”だった。また、2000年前後のガングロの時代は、黄色みでもピンクでもなく、日焼けしたようなダークカラーな“肌色”が求められていた。

 

日焼けしたような・・・・・・といったのは、あのガングロは日焼けサロンで肌を焼いて黒くしていたわけではないからだ。もちろん、日焼けサロンで肌を焼いてガングロにしていた女の子たちも少なくはない。だが、一部ではファンデーションを使って、肌を黒くみせていた。ちょうど、鈴木雅之率いるシャネルズ(後のラッツ&スター)が、黒塗りメイクをしていたのと同じだ。都市伝説的には、シャネルズの黒塗りメイクは靴墨で顔を黒くしていたといわれていた。だが、実際のところは舞台演劇などの用途に使われるドーランを塗っていたらしい。

 

若い世代はシャネルズと黒塗りメイクと聞いてもぴんとこないだろう。蛇足とは思うが説明しておくと、シャネルズというのは、1980年代に活躍したドゥーワップを歌っていたバンドのこと。ドゥーワップがアフリカ系アメリカ人の音楽に由来するため、鈴木雅之ら4人のボーカルたちが、顔を黒く塗って歌っていた。1980年代だから許されていたのだろうが、今の時代だと人種差別といわれても仕方がない。

 

 

 

 

 

じっさい、2017年の大晦日に民放で放送されたバラエティ番組内で、日本人のタレントがアメリカの俳優エディー・マーフィに扮して、肌を黒く塗っていたことに対し、英メディアのBBCや米メディアのニューヨークタイムズなど、海外メディアから人種差別的と非難の声があがった。アメリカでは1800年代に、顔を黒く塗った白人が、黒人役を演じるMinstrel Showが人気を博していた。だが、人種差別的だとじょじょに廃れていった。

 

 

2000年前後にガングロをしていた女の子たちに、黒人への憧れや人種差別的な意図などあるはずがなく、ただ日焼けした肌への志向が、若者特有にエスカレートしていったに過ぎない。

 

■肌を黒く見せるファンデーション

ガングロの女の子たちが愛用していたファンデーションは、MACのStudio Fix Fluid  NW55といわれている。これは現在、日本では発売されていない。日焼けした肌のようにみせたくて、ダークカラーのNW55を使うわけだが、このファンデーションはSPF15で日焼け対策もできるというファンデーションである。日焼けサロンで肌を焼かずにファンデーションを活用していた女の子の多くは、肌が弱くて焼けないという悩みを抱えていたらしい。その意味では、日焼け止め成分の配合は大きな関心だった。MACには、NW60いうさらにダークカラーなファンデーションも存在している。なぜ、NW60を使わずにNW55を使っていたのかは、いずれ理由を調べてみたい。

 

■アフリカの“肌色”とファンデーション

このNW55は、あまりのダークカラーゆえに、当時の女の子たちは“黒人用”ファンデーションと疑わなかったらしい。MACとしては、特定の人種向けという意図はなかったはず。だが、やはり色味からいえば、NW55以上のダークな色合いのファンデーションは、黒人の女の子たちに愛用されている。

 

 

 

 

ところで今年2月、仕事の関係で初めてアフリカへ出張した。行き先は、タンザニアとウガンダである。今夏、横浜でTICAD7(Tokyo International Conference on African Development;第7回アフリカ開発会議)が開催されたが、日本はアフリカと互恵関係を構築しようと努力している。所属する大学も、アフリカ人材育成を日本語教育や臨床工学分野で、その一翼を担っている。

 

さて、アフリカ人学生の様子を見ていて、気づいたことかある。パートナーシップを結んでいるタンザニアのドドマ大学は、かなり広大なキャンパスを有している。イメージとしては、アフリカの大草原のなかに大学があって、見える範囲全てが大学の敷地と思ってもらえばいい。大げさのようだが、それくらい広い。その広い敷地に、教室棟や研究棟が点在している。一つひとつの建物が、車で5分から10分くらい離れている。建物をつなぐシャトルバスがあると思うだろう。だが、そんなバスはなく、学生たちは各々徒歩で移動している。しかも、暑い日中に日傘も差さず、涼しい顔をして歩いている。これが大学に限った話ではなく、けっこう街中でも歩いている人は多かった。

 

レイシズムにとらえられてしまうかもしれないが、こ

れだけ歩くと体力もつくし、黒人だから日焼けを気にしなくていいのかと、納得しそうになる。もちろん、誤解のないようにいっておくと、歩くか歩かないかは学生それぞれであるし、体力の有無も個人差であって人種とは関係がない。また、黒人だから日焼けしないかといえばそんなことはなく、彼らだって急激な日焼けで皮膚剥離がおこる。黒人だから、白人だからというのは、じつはそんなに関係がない。もちろん、メラニン色素のもっている度合いは違うので、日焼けしても黒くならず赤くなるという違いはある。

 

また、学生にショッピングモールに連れて行ってもらいドラッグストアで化粧品コーナーを覗いてみた。やはり、販売されているファンデーションはダークカラーが多く、日本のようにアイメイクやリップメイクに関する化粧品は少なかった。その理由は、黒人の肌の色に合う色合いの化粧品が少ないせいかもしれない。

 

■アフリカに向けた化粧品

あまり街中で化粧品を販売するショップを見かけることが、他の都市に比べて少ない。現地の学生たちによると、顔への化粧よりもヘアメイク、つまり髪型への思いが強いらしい。そのためか、すでに30年以上も前から化学製品製造大手のカネカは、頭髪製品ビジネス(主としてエクステンション=つけ毛)を西アフリカで展開している。

 

ユーロモニターの調査によれば、アフリカのメイクアップ市場規模は、ここ10年で2倍近く拡大している。すでにロレアルをはじめとして、クラランス、エスティローダー、P&Gなどは、ドバイに拠点を置きアフリカを市場に攻勢をかけている。日本も資生堂が、モロッコ、南アフリカ、チュニジアで化粧品販売をおこなっている。化粧品分野でもアフリカとの互恵関係をすすめていく時期にきている。