わたくし事だが、バンコクに居をかまえて、6年目になる。2012年の夏に、タイ王国(以下、タイ)の国立大学より誘いを受けて、翌年より3年間、専任講師を務めた。今は、現在勤めている大学のアセアン拠点の担当者としてバンコクと下関を往復している。

 

じつは、バンコクで生活をはじめるにあたって、一度も下見をしなかった。つまり、初めてバンコクを訪れた日から、バンコクの生活をはじめた。

 

スワナプーム国際空港を降り立つまで、食費は1日500円、1ヶ月で5万円もあれば生活できるだろうと考えていた。というのも、当時のタイ人の大卒者の初任給が1万5千バーツだったからだ。給与ベースで考えれば、日本の1/4の費用で生活ができるはずだった。だが、実際は日本から持ち出しをしなければ生活はできなかった。

 

もちろん、1ヶ月を1万バーツ以内で生活しているタイ人は多い。だが、同じようにポルシェといった高級車で通勤をし、生活の全てを家政婦に任せるというタイ人も少なくはない。それほどに貧富の差は大きい。余談になるが、タイで大学教員の給与は、低いほうに位置づけられている。

 

 

タイの概要

タイは、51万4,000平方キロメートル(日本の1.4倍)の国土におよそ7,000万人が暮らしている。マハ-・ワチラロンコン・ボテインタラーテーパヤワランクーン国王(ラーマ10世)が国家元首で、94%が仏教徒、5%ほどがイスラム教徒を占める国である。主要産業は農業であり、就業者の約40%を占めるが、GDPでは10%にとどまる。一方、製造業の就業者は15%だが、GDPの35%、輸出額の90%を占める。

 

 

■タイの化粧品マーケット

ところで、タイの化粧品マーケットはどうなっているのだろうか。JETROの調査結果(「平成 25 年度タイの化粧品・パーソナルケア商品市場調査」)や矢野経済研究所の調査結果(「化粧品マーケティング総鑑」「ASEAN化粧品マーケティング総鑑」)をもとに、日本と比較をしてみたい。

 

日本とタイで比較可能な2012年度において、日本国内の化粧品市場規模は、ブランドメーカー出荷金額ベースで2兆2,900億円と推定されている。スキンケア市場は1兆596億円、メイクアップ市場は5,016億円だったとされる。このとき、スキンケア市場では1,000円前後の低価格帯化粧品が市場を牽引し、メイクアップ市場では中価格帯のカウンセリングブランドから低価格帯のセルフセレクションブランドへのシフトがすすんだとされる。また、男性化粧品市場は1,095億円であり、ヘアスタイリング剤が低迷していたものの、ヘアケア製品やスキンケア製品が好調とされている。

 

一方タイは、化粧品市場規模は663億3,700万バーツと推定されている。スキンケア市場は507億バーツ、メイクアップ市場は157億バーツだったとされる。化粧品市場に占めるスキンケア商品の割合はおよそ76%、メイクアップ商品の割合はおよそ23%、男性化粧品市場は48億バーツであり、スキンケア、シェービング、デオドラントなどで市場が拡大したとされている。タイは日本から1,190トンの化粧品を輸入しており、そのシェアは17.0%と、アメリカに次いで第2位だった。だが、その輸入はおそらく低下している。その理由は、後述したい。

 

なお、タイにおける化粧品の価格帯であるが、一般的にカウンターブランドとよばれる高価格帯のプレミアムブランド化粧品は、主にSiam Paragonのような百貨店などを販路とし、日本の化粧品であればSHISEIDO、IPSA、KATE Tokyo、SK-Ⅱ、THREEなどが扱われている。その価格は1,000バーツを超え、20,000バーツを超えるものもある。BootsやWatsonsなどのようなドラッグストアで販売されているマスブランドの日本の化粧品であれば、Hada Labo、MAJOLICA MAJORICA、AQUA LABELなどがある。その価格帯は、100バーツ前後から1,000バーツ前後である。ほかにも、サイアムスクエアをはじめとする繁華街などにある露店、BTS(高架鉄道)の構内で展開するKarmartsなどの独立系店舗、セブンイレブンをはじめとするコンビニエンスストアでも、おもに100バーツ以下の低価格化粧品が販売されている。

 

 

タイの法定最低賃金は日額300バーツであり、大学新卒者の平均初任給は月額15,000バーツから20,000バーツといわれている。だが、学生たちが世界展開するファストフード店でアルバイトをした場合の時給は45バーツ程度。収入から考えれば、富裕層を除いて、マスブランド化粧品が主に購入されている。

 

タイの大学生たち(といっても、BMWで通学するような学生から授業料が払えず卒業間近に後納する学生までいるが)に聞くと、たいていはSK-Ⅱをはじめとする日本ブランドの化粧品を使用したいと答える。だが、実際に購入するのは韓国ブランドの化粧品だ。理由は、価格の安さと、K-POPの影響によるブランディングにある。そして、これが日本製化粧品の輸入額が伸び悩んでいるだろうと推測する理由である。一見してもそうと思えるほどに、韓国製化粧品は街中に多い。

 

 

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