自己不全感とは自分自身の活動や機能、または容姿などについて完全でない、優れていないと思ってしまう感情のことですが、ひと言で言い表せない難しさもあります。最近、ネット上などでよく目にするようになりましたが、あまり一般的では聞かれなかったこの言葉、一体どんな意味なのでしょうか。今回は、そんな「自己不全感」の秘密に迫ります

1:自己不全感とは?

さて、自己不全感とは一体なんなのでしょうか。実は、自己不全感はとても難しく、ひと言では説明することができません。

(1)自己不全感のもとになる自己愛の問題

自己不全感を理解するためには、まず「自己愛」について知らなくてはいけません。自己愛とは「narcissism」の日本語訳であり、自分自身を愛することや大切に思う心理を意味します。自己愛をもつこと自体は悪いことではなく、「自分を愛することができない人は、他人を愛することもできない」ともいわれています。

 

ですが最近では、自己愛を守るために平気で他人を傷つけたり、他人を利用をしたりすることが問題となっています。また、自分自身が傷つかないために、自己愛が傷つく可能性のある場面を極端に避け、学校や社会から隔絶されて、ひきこもるような現象も増えています。

 

こういった過剰な自己愛のあり方を、「過敏型自己愛傾向」と呼んだりします。

(2)過敏型自己愛傾向の特徴

過敏型自己愛傾向には、4つの特徴があるとされています。その4つの特徴を簡単にまとめます。

 

  1. 自己像のギャップ・・・対人関係において、自分の考える自己像と他者から見た自己像が異なるといった自己像のギャップを感じやすい。
  2. 自己像の不安定性・・・自己像(=自分がもつ自分自身のイメージ)が安定しない。
  3. 同一性の拡散・・・自己像が安定しないため、自分がないという考えを抱きやすい。
  4. 同一性の拡散・・・他者に対して過度に抑制的になり、自己主張をすることが難しい。

このように、自己像が揺らぎ、自分という実感が乏しく、他者に対して自己をありのままに表出することが難しい状態を“自己不全感”と専門的には呼ぶことが多いんです。

そして自己不全感は、精神的健康や身体的健康、個人の状態にネガティブな影響をもたらすとされているので、自己不全感が高いことはけっして良いことはないでしょう。

(3)自己不全感があるかどうか

では自己不全感があるかどうかの簡単なチェックをしてみましょう。次の質問に、あなたはどれくらいあてはまるでしょうか。あまり深く考えず、直感的にあてはまる質問を数えてみてください。

 

Q.1 人前で、あるがままの自分をさらけ出せない。

Q.2 本心を人には見せない。

Q.3 人に見られている自分と、本当の自分は違う。

Q.4 人前での自分は、本当の自分ではない。

Q.5 自分がないと感じることがある。

Q.6 人前で演じている「自分」が好きではない。

 

この質問内容にあてはまる数が多いほど、自己不全感を感じていると言えます。

 

2:自己不全感を抱く心理

では、自己不全感を感じるのはどうしてでしょうか。

(1)青年期の発達

人は成長する過程の中で、特に青年期では、心身両側面で発達が加速され、自我や性の目覚めによって自己の内面への関心が増し、個人が自らを見つめ直し、社会的に自立した存在へと移行していくとされています。

 

つまり、通常はさまざまな葛藤や悩みを経験し、それを人間関係の中で克服し、成長していくわけです。ですが、それにつまずいたり、その成長を別の好ましくない方法で解決してしまう場合もあります。

(2)「よい子」と自己不全感

「よい子」とは、周りの人との関係で、自分に味方してくれる人に気に入られようとして、自分の感情を抑えてでもその人の期待に応えようとする人を指します。

 

自分にとって重要な他者の期待に添うように努力するため、不快感、不安、不満などを持ちやすいだけではなく、そのような自分自身に対して、嫌悪感や無力感、自分らしさの喪失感を抱き、ストレスを増強してしまう傾向にあるとされています。

 

つまり、「よい子」ほど、自己不全感の状態に陥りやすいんです。

 

3:自己不全感を改善する方法

では、自己不全感を改善(=克服)する方法はあるのでしょうか。自己不全感について、先述したような過分型自己愛傾向がもとになっているとして考えると、自己主張を抑制したり、内に秘めた自分と外向きの自分との間のギャップの大きさを克服することが、自己不全感の改善方法かもしれません。

 

具体的に言うと、他者から見た自分と、自分の思う自己像にギャップがあり、そこに違和感を覚えてしまうのです。そのため、他人に気に入られようと無理をすることをやめるのも、自己不全感を改善するひとつの手かもしれません。

 

また、ありのままの自分を人に伝えることができないと感じる傾向があるため、自分を隠したり、抑えようとしないことも大事でしょう。

 

ですが、なかなかこういったことを、自分自身が気をつけるだけで改善することは簡単なことではありません。カウンセラーといった専門家の力を借りることが重要になってくると思います。

4:まとめ

自己不全感は、あまりなじみのない言葉ですが、実際は、精神的な健康や身体的な健康に影響する、心理的に重要なキーワードなんです。

 

もし自分が自己不全感を感じていたり、自己不全を感じているかどうかの質問にあてはまる数が多く悩んでいる人がいたら、ぜひ専門家に相談してみてください。

 

 

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