ひとは,被服を身にまとって生活している.その理由は,身体の保護だけにとどまらず,社会的・文化的な生活を送るうえで重要な,いくつかの役割を果たすためである.そんな,我々が日常的におこなっている被服に関する行動は,購買(選択),着装(使用),廃棄のすべてを含み,文化や社会,個人差といった様々な要因によって規定される.

 

たとえば,佐々木によれば,被服に対する購買態度は,一般の商品全体に対する購買態度だけではなく,保守的・革新的といった生活態度や価値態度によっても規定される.また,天野らが着装態度のタイプと被服行動特性の関係を検討したところ,ファッション情報への関心について,売り場の陳列商品を注意してみる,他人の服装をいつも注意してみるなど身近な情報への関心の高さが関連していた.また,着装態度では着心地や肌触り,動きやすさ,場所柄を重視し,他人に不快感を与えない服装,清楚な服装を心がけ,服装は信用に関わるからおろそかにできないなど,社会性,容儀性が重視された.しかし一方で,異性に魅力的に見られるような服装がしたい,周りに縛られず自分の好きな服装をしたいといった意識も高かった.そして,着装態度を『他者同調流行追随型』『おしゃれ軽視流行否定型』『個性重視流行積極型』『他者同調流行消極的型』の4つのタイプにわけ比較したところ,流行行動や購買行動,被服費などに差がみられた.

 

このような個人が示す被服行動の傾向を把握しようと,これまでに被服行動に関する尺度が作成されてきた.たとえば,AikenやCreekmoreが作成したものがある.また,日本における測定尺度としては,神山が作成した被服関心度質問表や,永野の被服行動尺度があり,様々な研究で使用されてきた.

 

近年,ファッションのグローバル化は雑誌やテレビなどの情報のみならず,海外ブランドの出店や輸入,インターネットでの衣料品の購入などを通じて,積極的に展開している.だが,各国にはその国独自の衣生活が存在し,そこには異なる被服行動が存在すると考えられる.そこで本研究では,日本とタイの被服行動をあきらかにし,比較検討することを通じて,両国間の被服マーケティングへの寄与を試みたい.

 

なお,日本貿易振興機構(JETRO)がおこなった調査によれば,タイのアパレル市場規模は, 2009 年の年間販売額ベースで約3,547億バーツとされている.統計データのある1993年以降をみると,1993年から2003年までの10年間で約57%.金額にして,約1,222億バーツ増加しているという.また,タイの既製服輸入額は2009年では80億8,360万バーツであったとされる.国別の輸入元において,日本は中国・香港に次ぐ第3位である.今後,日本のアパレル企業がタイにおいて,より市場を拡大していくためには,タイ人の被服行動を理解することが必要である.

 

そこで本研究では,被服行動のなかでも購買と着装に注目し,タイ人の被服行動をあきらかにするため,日本人との比較調査をおこなった.

 

【原著論文】

平松隆円(2017)「被服行動の日タイ比較」(繊維製品消費科学)