ひとは生きるなかで,所属する集団の成員としてふさわしい生活様式,行動,価値などを身につける.それは化粧も同様であり,それゆえに,ひとは状況に応じて一定の方法で化粧をおこなう.そして,そこには化粧基準ともいうべき行動のよりどころがあり,それに照らしあわせて実際の行動を決定している.

 

平松は,青年男女を対象に調査をおこない,化粧行動を規定する基準として,『個性』『社会的調和』『他者同調』という自己顕示的な基準と社会同化的な基準が存在することをあきらかにした.また,これらの化粧基準は,男性では私的自意識,外的他者意識が規定し,女性では,部分的ではあるが公的自意識,私的自意識,内的他者意識,外的他者意識,空想的他者意識が規定することもあきらかにした.

 

しかしながら,集団における生活様式,行動,価値といったものは,その集団がどのような文化,社会,環境に属しているかによって異なることが推測される.そこで本研究では,日本とタイの比較をおこなう.

 

なお,タイを比較対象とした理由に,ASEANにおける化粧品市場への日本企業の進出への寄与を強調したい.ASEAN 主要5ヶ国の化粧品市場は,経済成長による個人消費の拡大や人口増加などが続いており,2014 年では小売金額ベースで,前年比106.3%増の拡大をしているとされる.現在においても引き続き,経済成長による国民所得の増加で市場は拡大し続けていると推定される.ASEANにおける化粧品市場に商品や企業を根付かせるためには,市場の特徴を知り,ASEANにおける消費者のブランドロイヤリティを確保することが重要である.だが,それ以上に,消費者の化粧意識や化粧行動を規定する基準について知り,マーケティングを展開していくことが肝要である.

 

【原著論文】

平松隆円(2017)「化粧基準と化粧行動の日タイ比較」(繊維製品消費科学)