ひとは生きていくなかで,その集団の成員としてふさわしい生活様式,価値を身につける.それは化粧も同様である.それゆえ,ひとは状況に応じて一定の方法で化粧を行なう.つまり,社会的な場面で化粧行動を規定する行動や判断の基準としての化粧規範意識が,人々のあいだで存在していると考えることができる.

 

こうした化粧規範意識に関連して,これまで平松がいくつかの研究を行なっている.

 

平松・牛田は,化粧を施す生活場面とそれを規定する化粧意識について検討した.それによると,対人接触や状況の公私の高さにより化粧を施す生活場面が構造化され,男性では必需品・身だしなみが,女性では魅力向上・気分高揚,必需品・身だしなみ,効果不安が化粧を施す生活場面を規定している.平松は,公衆場面での化粧行動への社会的是非について検討した.それによると,公衆場面での化粧行動や社会的是非は,特定・不特定の他者の存在や状況の公私によって構造化されていること,不特定他者がいる比較的公的な場面で社会的にも化粧をしてよいと考えている者は,特定・不特定の他者の存在に関係なく化粧行動を行なっている.さらに平松は,学生と彼らの親世代を対象に,化粧規範意識の構造について検討した.それによると化粧規範意識は,調和,個性,同調,近接,若さの5つの因子で構造化される.さらに,クラスター分析によって調査対象者の類型化を試みた結果,学生よりも親世代の方が化粧規範意識の高い.

 

これらの結果は,化粧についての社会的場面で共有されている暗黙のルールとしての規範意識の存在を示唆している.しかしながら人々は,そのルールを認識しながらも,自分なりの重み付けを行ない化粧の程度や内容をかえている.つまり,同じ社会的場面であったとしても,一般的に問題とされる共通の化粧基準のなかで,個人がどの基準をどの程度重視するかによって実際の行動は異なる.それには,個人差要因の影響が考えられる.

 

そこで本研究では,先行研究の結果および平松であきらかにされた化粧規範意識の構造をふまえて,化粧規範意識に関連すると考えられる他者意識,自意識,形式主義,独自性欲求を取り上げ,それら個人差要因が化粧規範意識とどのように関連するかについて検討を行なった.

 

【原著論文】

平松隆円(2014)「化粧規範に関する研究 ―化粧規範意識を規定する個人差要因(他者意識・自意識・形式主義・独自性欲求)―」(繊維製品消費科学)