化粧とはなにか。

薬事法では「人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なもの」と化粧品を定義している。このことから化粧とは、清潔、美化、魅力増進、容貌変更を意図して、顔面に限定されず身体に塗抹される行動を意味していることがわかる。

人々は「魅力向上・気分高揚」などを期待して化粧をおこなっている。しかしながら、化粧品は医薬品ではないため、当然ながらその効果をうたうことはできない。

そのため、企業による広告宣伝、消費者による化粧に対する期待、実際の効用とのあいだにズレを生む可能性を否定できない。また、身体に直接施すものであるため、化粧品の使用が各種のアレルギーなどを誘発する可能性もある。

歴史的に化粧をめぐる企業と消費者の関わりは、順風だったわけではない。ときに、ある化粧品が消費者に害をおよぼし、企業に対して責任を追求することもあった。いったい企業は、どのように消費者や社会と関わり、経済活動をおこなうべきなのか。また、消費者は企業の提供する製品やその情報を、どのように受け止めていくべきか。

本研究では、化粧によって生じた鉛中毒と黒皮症とを例にあげ、化粧をめぐる企業と消費者の関係を歴史的な視点から読み解き、なぜそのような被害を生んだのか検討する。

なお、鉛中毒は白粉に含まれていた鉛成分によって引き起こされた症状であり、近代になってから原因があきらかとなった日本で最初の化粧による健康被害の事例である。また、黒皮症は現代になってから社会問題化した化粧品による健康被害の事例であり、両者の比較を通じて企業の社会的責任と消費者のあり方はどうあるべきかについて考えてみたい。



【原著】
平松隆円 2012 化粧をめぐる企業と消費者の関わり ―その歴史的考察― 繊維製品消費科学 53(12) 66-71