一般的に 社会で個人が行う行動は その個人の自己に規定される

自己に関する概念は自己概念(self-concept) それを受け入れることは自己受容(self-acceptance)と呼ばれ この自己概念は自己の認知的側面(self- perception)と自己の評価的側面(self-evaluation)に大別される

自己の認知的側面とは「スポーツが得意だ」「社交的だ」などといった側面であり 自己の評価的側面とは「自分に満足している」「自信がある」などといった側面である

なお 自己受容は自己評価とほぼ同義とされている.

我々は 他者との相互作用なかで形成した自己認知をどの程度のものであるか評価している

その評価は ある基準における優劣だけが問題になるのではなく 自己にとってそれが満足できるものか否かが重要となる

中村・板津によれば 実際の行動が行われるに至るまでの過程として 自己の姿への注目・把握・評価が行われる

すなわち 我々は他者との社会的相互作用を通じ 自己の特徴を概念化し それを評価する

そして その評価を維持・低下させないよう自己の姿を操作する

化粧は その操作方法としての一例である

自己と化粧行動の関連性については これまで主に自意識や性役割や社会的スキルといった個人差要因(性格特性)との関連が検討されている

それらの結果を要約すると 化粧行動には男女共通して公的自意識が 性役割について男性は男性性が 女性は女性性が高い者ほど化粧関心や行動を示すこと 社会的スキルの高い者ほど男女とも化粧をよく行うことなどが明らかにされている

しかしながら 自己評価の高い者は化粧をよく行うといった指摘があるものの 自己評価と化粧行動との関連を裏付ける調査研究はほとんどない

女性のみを対象としているが 自己評価の高い者は自己評価の低い者に比べメイクアップ化粧品と基礎化粧品のどちらもより多く使用しているといった先行研究があるのみである.

化粧行動と隣接する被服行動については 被服に関する心理学的研究が行われるようになった頃から 積極的に自己認知や自己評価といった自己概念との関連について研究が行われている

例えば Reeder & Drakeはスポーツ選手を対象に 自己評価の高い者ほど目立つ着装をすることを明らかにし 藤原は女子学生を対象に 自尊心の高い者は個性を強調するような被服行動を 自尊心の低い者は社会的受容や慎み深さを重視した被服行動をとることを明らかにしている

被服行動の先行研究から 化粧行動についても自己概念との有意な関連性のあることが仮説として推測される

また女性だけではなく男性についても 女性を対象とする化粧行動の先行研究から 男性についても自己評価の高い者ほど化粧行動を一層行うとことが仮説として推測される

しかしながら その検討にはたんに化粧を行う者の自己概念を測定し 化粧行動との関連を検討すればよいというわけではない

中村・板津の指摘によれば いかに自己の特徴を概念化し認知しているのか またそれをどの程度評価しているのかを検討する必要があり その評価を維持・低下させないように どのような化粧行動を行っているのか階層的に検討する必要があるからである

自己認知と自己評価の関係について 沢崎は適切な自己評価が行われるためには正確な自己認知が必要であり 両者は相互依存的な関係であると指摘する

もちろん 我々は自己について一つの側面だけを認知しているわけではない

Frommは 地位や名誉 経済力や運動能力 学校の成績や友人関係など様々な要素の卓越さを他人に認められ また自分自身も肯定的に認知することで精神的な安定 すなわち自己評価を高めようとしていると指摘している

そのため 自己認知については多面的に検討する必要がある

そのため本研究は 社会的機能に関して学問的関心が高まっている化粧行動を主なテーマに 当該行動と自己に関連する心理学的要因である自己概念との関連性を明らかにすることを目的に まず大学生を対象として彼らの自己概念の構造を自己について多面的にとらえているHarterのSelf-Perception Profile for Childrenを用いて検討し 次に自己評価が彼らの化粧行動といかに関連しているかについて検討する

【原著】
平松隆円・姜鶯燕 2007 当代日本大学生的化妝行動和自我概念的関聯性 佛教大学大学院紀要 佛教大学 第35巻 pp.115-126