電車内や駅ホームで化粧を行う女性たちが話題になって久しい

いや 今日では男性たちにおいてさえそれをみることができる

なぜ 彼らは公衆場面で化粧を行うのか

菅原は 電車内での化粧行動の特徴に「若さへのこだわり」「流行への関心の強さ」「親子関係への不満感」という3点をあげ この特徴から「同年齢集団への強い依存性」に注目し 同じ価値観を共有する仲間との人間関係が濃厚になるほど 他の人間関係が希薄化し 生きる世界が限定されているため 恥を意識する世界も狭められているとし 電車内での化粧といった行動は 個々に特別な理由や動機があるわけではなく 公共場面に居合わせる他の人々の存在を 気にしていないという共通の背景から生まれていると指摘した

澤口は 電車内での化粧行動を恥や迷惑だと考えないことについて 脳科学のアプローチから教育やしつけの不十分さに起因する 脳の前頭連合野の未熟による感情的知性の未発達ゆえの感受性・感情表現の鈍化という脳機能障害の一種であると指摘した

米澤は 場所を問わず衆人環視のもとで化粧行動が日常的になりつつある現象は 化粧が覆い隠したり補正したりするのではなく モード化し 着こなしになった結果であるとして 電車内で化粧をする女性が増えたのは 化粧への考え方が大きく変わったため 自らをフィギュアのような容姿に作りこむコスメフリークの90年代の日本が生み出した文化現象であると指摘した

このような指摘がなされるなか 電車内や駅などでの化粧行動に関する調査が行われた

ベネッセは 高校生を対象に調査を行い 15.8%の者が電車内や街で化粧をすることを「絶対やめて欲しい」と回答したのに対して 50.4%の者が「特にかまわない」と回答したことを報告した

この数値は 学年が上がるにつれ増加傾向を示しており 男女別では「絶対もしくは できればやめて欲しい」と回答した者は 男性では41.3% 女性では56.2%と 男性の方が許容している

また中央調査報は 全国20歳以上の男女約1400人を対象に調査を行い 全体では66.0%が電車内の化粧を「気になる」と回答し 属性別では男性は58.2%が 女性は73.2%が 電車通勤・通学者は71.8%が 非電車通勤・通学者は65.0%が「気になる」と回答したことを報告した

内田・小林は 公共の場で化粧をする者は 自分より他者に寛容であることを報告した

これまでの化粧行動の許容に関する研究では 主に電車内や駅を対象としており 多様な公衆場面を対象としての 化粧行動の許容の構造を明らかにした研究はほとんどない

また これまでの若者を対象とした化粧研究では 化粧行動には男女共通して公的自意識が 化粧意識には男性は外的他者意識が 女性は公的自意識や外的他者意識が関連することが明らかにされており 公衆場面での化粧の行動の許容と これら個人差要因についても有意な関連性が仮説として考えられが これを裏付ける先行研究も見当たらない

そこで本研究では まず若者が様々な公衆場面での化粧行動についてどのように考えているのか その許容の構造を明らかにするとともに 化粧行動や化粧意識に関連する自意識や他者意識といった個人差要因が 化粧行動の許容にいかに影響しているのかを明らかにすることを目的として調査を行った

【資料】
平松隆円 2006 化粧行動許容に関わる公衆場面の構造解明とそれを規定する個人差要因 繊維製品消費科学 社団法人日本繊維製品消費科学会 第47巻 11月号 pp.12-21