我々は 社会を通して自己に関する知識を蓄積し 自己の能力 行動 性格などを評価し自己の存在を受け入れている

一般的に 自己に関する概念は自己概念(self-concept)) それを受け入れることは自己受容(self-acceptance)と呼ばれる

この自己概念は 自己認知(self- perception)と自己評価(self-evaluation)に大別される(山本・松井・山成 1982)

自己認知とは「スポーツが得意だ」「社交的だ」などといった様々な要素から構成される自己の認知的側面であり 他方 自己評価とは「自分に満足している」「自信がある」などといった自己に対する評価的側面である

なお 自己受容は自己評価とほぼ同義とされている(Rogers 1949 Silber 1965 中村・板津 1988)

人は 他者との相互作用なかで形成した自己認知をどの程度のものであるか 評価している

評価は ある基準における優劣だけが問題になるのではなく 自己にとってそれが満足できるものか否かが重要となる

さて 自己認知と自己評価の関係について 沢崎(1984)は適切な自己評価が行われるためには正確な自己認知が必要であり 両者は相互依存的な関係であると指摘する

白波瀬(2004)は醜形恐怖症 自傷 摂食障害などの多くは 極端に低くまたは不適切に自己の外貌を認知することにより 自己評価が低くなり自己を受け入れることができず精神病理として発症していると指摘する

これらの指摘は 自分自身をどのように受け入れ また安定した自己像が形成されているかについては 自己の適切な認知が重要であるという知見を提供する

もちろん 我々は自己について一つの側面だけを認知しているわけではない

Fromm(1947)は 地位や名誉 経済力や運動能力 学校の成績や友人関係など様々な要素の卓越さを他人に認められ また自分自身も肯定的に認知することで精神的な安定 すなわち自己評価を高めると指摘する

そのため 自己評価を高める要因としての自己認知については 可能な限り多面的にとらえる必要がある

本研究の目的は 自己について多面的にとらえているHarter(1985)のSelf-Perception Profile for Children(以下SPPC)モデルにより 大学生の自己概念の構造について検討を行うことである

SPPCとは,Scholastic Competence(学業能力) Social Acceptance(友人関係) Athletic Competence(運動能力) Physical Appearance(容姿) Behavioral Conduct(品行)という5つの下位尺度からなる自己認知に関する30の質問項目と Global Self-Worth(全体的自己価値)という1次元の自己評価に関する6の質問項目から構成されている

なお 全体的自己価値とは他の自己認知的側面とは独立して存在するとされ ありのままの自己を抑圧・歪曲なしに受け入れることとであり 自己評価を意味している(Harter 1985)

これまで 日本においてSPPCを用いた研究は 児童を対象としてものにいくつかある

桜井(1983)は SPPCのもととなった,Cognitive(学習) Social(友人) Physical(運動) General Self-worth(全体的自己価値)の4つの下位尺度を構成する28項目からなるPerceived Competence Scale for Children(Harter 1979 以下PCSC)の日本語版を作成し 検討している

その結果 原尺度と共通性の高い日本語版が作成され 学習と全体的自己価値の年齢の上昇にともなう単調減少傾向と 運動と全体的自己価値の男女差を明らかにしている

藤崎・高田(1992)は 小学生にはSPPCを 成人にはSociability(対人関係) Job Competence(仕事) Nurturance(養育) Athletic Abilities(運動) Physical Appearance(容姿) Adequate Provider(供給) Morality(道徳) Household Management(家事) Intimate Relationships(親密な関係) Intelligence(知的能力) Sense of Humor(ユーモア) Global Self-Worth(全体的自己価値) の12の下位尺度を構成する50の質問項目からなるAdult Self-Perception Profile(Messer and Harter 1986 以下ASPP)を 中学生や高校生や大学生にはASPPのうち対人関係 運動 容姿 道徳 親密な関係 知的能力 全体的自己価値の7つの下位尺度を用いて横断的に発達的変化を検討している

その結果 小学生では全体的自己価値と友人関係 中学生では全体的自己価値と容姿 成人では全体的自己価値と仕事が1つの因子として抽出され 発達段階により全体的自己価値に強く影響している下位尺度が異なることを明らかにしている

また 年齢の上昇により 友人関係 対人関係 親密な関係といった人物との関わりを重要と考え 小学生では友人関係や運動能力 中学生以上では知的能力 運動 容姿 全体的自己価値について男性は女性に比べ有意に高いことを明らかにしている

前田(1998 1999)は SPPCの日本語版を作成し それを絵画式に改訂したうえで健康状態の異なる児童で検討した結果 健康上慢性状態にある児童群は対照健康児童群に比べ運動が否定的ではあったものの その他については有意差がないことなどを明らかにしている

眞榮城(2000))は SPPCの日本語版を作成し 児童期にいる者の自己概念を検討しているが 小学3年生から6年生と中学1・2年生に有意な差があり 自己認知や自己評価が中学1・2年生頃から低下することを明らかしている

このように SPPCは日本において既にいくつかの日本語版が作成され 日本人に適用可能であることが証明されている

そのため 本研究においても 大学生の自己概念を検討するうえ有効であると考えSPPCを用いた

Harterは 青年期を対象とするSelf-Perception Profile for Adolescents(以下SPPA)や青年後期を対象とするSelf-Perception Profile for College Students(以下SPPCS)など幼児から成人まで5種類の尺度を作成している

本来 大学生の自己概念を検討するならば SPPAもしくはSPPCSを用いるべきであるが Harterの各尺度に共通して存在する基本的な自己概念の因子によって構成されているSPPCを用いて検討を行うことで 大学生の基本的な自己概念構造を明らかにしやすく また様々な発達段階での横断的な比較検討が可能であると考え 本研究ではSPPCを用いた

さらに これまで日本において作成されている自己概念に関する多くの尺度は 当然のことながら日本人のみを対象としており 他国において比較検討された例をみることはほとんどない

しかしながら SPPCは スコットランド(Hoare et al 1993) オランダ(Van Dongen-Melman et al 1993) アラブ首長国連邦(Eapen et al 2000) フランス(Worth-Gavin and Herry 1996)をはじめとする様々な国において 翻訳・比較研究が行われているため SPPCを用いることで今後 自己概念についての国際的な比較検討が可能であると考えられる

【原著】
平松隆円 2008 SPPCモデルによる大学生の自己概念の検討 佛教大学大学院紀要 佛教大学 第35巻 pp.77-89