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1981年に発売されたこの作品。VOCALは、今や芥川賞作家となった町田康氏(当時は町田町蔵という芸名)。友達から初めて聞かされた時はよくわからなかったが、何回か聞くうちに、PILやFriction(日本のパンクバンド)と同じ位の愛聴盤になった。

この作品のラジカルさは世界レベルだと思う。パンクやニューウェイブ、ロックという枠は必要ない気もするくらい、若さの本質を表現した作品。しかし、パンクロックはおろか日本のロックがろくに評価されなかった時代には、とにかく早すぎた。日本のロック評論家でさえ、当時この作品をちゃんと評価できなかったと記憶している。

町田町蔵は大阪府堺市の出身。語弊があるかもしれないが、一言で言うと荒っぽい下町という感じ。そのせいか、町を歩く素朴な労働者に宛てたような裸の言葉がイタい。彼の歌は、すべて労働者への愛の裏返しなのかもしれないとも思う。彼の言葉が持つ、すこし古風なインテリ臭さが一時は嫌いだった。エリート主義の裏返しとしか思えなかったのだ。しかし、そう思うことそのものが、実は自分に対しての嫌悪だといくことにも気がついた。
彼なりの戦略だったのかもしれない。彼の歌は、聞き手がインテリ然としていることを許さないのだ。

当時、ほとんどの日本人にとって、ロックやパンクロックは観念的なものだった。つまり、ロックで食うことができなかった。その時代に、何人かの若者が世界レベルの作品を作ってしまったのだ。

『イギリスやアメリカのロックばっかり聞いててどうするんや?!!!』

この作品を聞いていると、そんな気にさえなる。ロックを聞かない人にも聞いてほしいと思う。横光利一や太宰治や村上春樹や高橋源一郎や中上健次やヘルマン・ヘッセやなんかと同じなのだ。表現のスタイルが音楽か小説か…ほんとうにその違いしかない。