月日は透明な幻のように過ぎ去っていった。透明な上に幻…つまり何事もなく、生きている実感のないまま過ぎていったのだ。もっと言うと僕は死んでいた。人は夢を無くすと死んでしまうのだ。ということは、一見夢のないように見える人たちも実は夢を持っているのだ。そんな事ばかり考えながらそれからの1年は過ぎた。

AやSさんと話すことも減っていた。というか、建設課での僕の仕事が減っていたのだ。ほとんど毎日することがなかった。僕には机もなかった。

そんな毎日なら早く捨ててしまえばいい!誰だってそう思うだろう。しかし、映画は主人公になってみなければわからないことが多いのだ。脇役がツッコミを入れるのは容易く、説得力もない…。

僕は1年半の間、一体何をしていたのだろう?その頃は毎日そんなことばかり考えるようになっていた。そして、そんなことは今考えてもしょうがないのだということも分かっていた。

転機はある朝突然やってきた。建設課のHさんから突然こう言われたのだ。

       『隆君、そろそろ辞めてください…』

元々ずっと役場で働く気はなかった。しかし、誰かに必要とされたいという気持ちもあったのだろう。僕を動けなくしていたものが、その気持ちだけだったことは後になってわかった。

        『ハイ…じゃあ仕事見つけます』

ほんとうはその前後に何分かのやりとりはあったと思う。しかし、今鮮明に思い出すのはそのやりとりだけだった。

Hさんが渡してくれた朝日新聞の求人募集ページを握り締めながら、僕は新しいスタートに立とうとしていた。とりあえずコンピュータ業界に入りプログラマーになろうと思った。かといってプログラムを書いたこともコンピュータを触ったこともなかった。コンピュータの専門学校はかろうじて卒業していたが…。

僕は10社近くの会社に履歴書を送り8社から採用見合わせの通知を受け取った。その中にはその後『一太郎』というワープロソフトで躍進を遂げたジャストシステムもあった。