その後も何回かワコから電話があった。その度、僕は過去のことを思い出した。そして自分が今居る場所が何かファンタジーのような気がした。僕はまだバンドマンなのだ。ステージで歌えないバンドマン…。ステージで歌えないバンドマンは山の中にラジカセを持っていき、ローリングストーンズの『You can’t always get what you want』を歌った。僕はミックジャガーよりも歌がうまいと思った。しかし…一体それがなんなんだろう???どうなるわけでもなかった。
憂鬱な季節は僕に新しい時代を連れてきた。それも突然にだ。
僕の住む家は山の中腹に聳え立っていた。台風19号は、その横50mの場所から川に向かって100mの山を抉り取っていた。山に出来た大きな舌。それは世界に対してアッカンベーをしているように見えた。たくさんの偶然が積み重なって、僕は中学時代の友人の働く役場の建設課で働く事になった。仕事は『偉大なるポール持ち』だった。といってもアルバイトだったが。バンドマンを諦めた男がはじめてちゃんとお金を貰ってする仕事なのだ。偉大なる…をつけてもいいだろう。
建設課はなごやかな空気の場所だった。それは実家よりはるかにアットホームだった。きっと、それなりの努力をしてそんな空気を作っているからだろう。僕はこの職場で社会復帰をするのだ。
中学時代の友人Aからまず紹介されたのは、中学の2年先輩のSさんだった。その風貌は小柄な職人と言う感じ。肩書きは主事だった。皆が尊敬しているというその人柄を体全部で表現しているような人。後に彼が東京出張の際、過労でビルの窓から落ち、生死の境を彷徨った末、復帰してきたんだと知った。僕は軽く挨拶した。Sさんは、『よう!隆くん、よう帰ってきたね』と言った。僕は同じような言葉をこの数ヶ月で何人からか聞いた。でも彼の言葉のように、内臓に染み渡る言葉ははじめてだった。それは、お互い死にかけたことがある者同志の共通の匂いに反応したことが理由だったのかもしれない。
憂鬱な季節は僕に新しい時代を連れてきた。それも突然にだ。
僕の住む家は山の中腹に聳え立っていた。台風19号は、その横50mの場所から川に向かって100mの山を抉り取っていた。山に出来た大きな舌。それは世界に対してアッカンベーをしているように見えた。たくさんの偶然が積み重なって、僕は中学時代の友人の働く役場の建設課で働く事になった。仕事は『偉大なるポール持ち』だった。といってもアルバイトだったが。バンドマンを諦めた男がはじめてちゃんとお金を貰ってする仕事なのだ。偉大なる…をつけてもいいだろう。
建設課はなごやかな空気の場所だった。それは実家よりはるかにアットホームだった。きっと、それなりの努力をしてそんな空気を作っているからだろう。僕はこの職場で社会復帰をするのだ。
中学時代の友人Aからまず紹介されたのは、中学の2年先輩のSさんだった。その風貌は小柄な職人と言う感じ。肩書きは主事だった。皆が尊敬しているというその人柄を体全部で表現しているような人。後に彼が東京出張の際、過労でビルの窓から落ち、生死の境を彷徨った末、復帰してきたんだと知った。僕は軽く挨拶した。Sさんは、『よう!隆くん、よう帰ってきたね』と言った。僕は同じような言葉をこの数ヶ月で何人からか聞いた。でも彼の言葉のように、内臓に染み渡る言葉ははじめてだった。それは、お互い死にかけたことがある者同志の共通の匂いに反応したことが理由だったのかもしれない。