霞ヶ関ビルの展望台は誰一人いなかった。僕は中島みゆきの歌をくちずさんだ。

♪ふたりだ~け この世に残し 死に絶えてしまえばいいと 心ならずも思ってしまうけど それでもあなたはわたしを選ばない~♪

今のふたりにこれだけ似合う歌はありそうになかった。僕は泣けないほどの奥深い闇に向かって舌を出した。ワコはまだ諦めそうになかった。僕はどうしたらいいのかわからなくなった。もう一度ワコを抱きしめることも考えた。でも…無理だった。

僕の愛は無力だった。ワコの愛も無力だった。ふたりには世界を敵に回す根拠はなかった。僕は自分の生み出したアルバトロスを始末することが出来なかった。ワコには新しい恋を待つ勇気がなかった。

そろそろ帰ろう…

僕の言葉に不満そうな気持ちを隠さずにワコはこう言った。

隆…もう嫌い

やろね…

僕は自分の為にデートの誘いに応じたことにすこし後悔した。アパートでひとりで魘されているより、自分を好きな女の子といるほうが楽だった。僕の痛みを別の形にして出してしまえるからだ。その頃にはもうギターを弾くことができなくなっていた。辛うじて歌うことはできた。でも僕はバンドをやっていなかった。だから誰かに本当の事を伝えたかったんだ。

その日、ワコは僕が言う一言を怖がっていた。

ワコ、もうすぐ救急車の音、聞こえるよ。誰か事故したんかな?

           …

僕がそう言った数十秒後には必ず救急車のサイレンが鳴った。ワコはその度に怯えていた。普通の女の子なら帰ってもおかしくない、っていうか、帰るだろう。それでもワコはずっと僕のそばを離れなかった。

僕はワコにそばにいて欲しかった。でもワコを好きになるのが怖かった。痛みに一緒に耐えてくれ!なんて言えなかった。そう言った途端、僕はほんとうに気が狂ってしまいそうな気がした。ジョンレノンは気狂いの甘チャンだとしか思えなかった。