僕はもう駄目かもしれない…
山の斜面にそのままみかんの木を植えた畑の真ん中に腰を降し、僕は途方にくれていた。ここはまるで監獄のようだった。抜けるような青空、肌を撫でてゆくすこし冷たい風、前方には小高い山が幾重にも連なっている。遠くのほうは紺色にみえる。山の向こうのほうからトランペットの音が聞こえてくる。中学校のブラスバンド部の誰かが練習しているんだろう。
ひとりでここにいると、世界中で起こっていることは、小さな箱庭に住む小人たちの営みのように思えてくる。僕はその外にいて、アルバトロスが来るのを待っている。
アルバトロス…もし君が神様の使いなら、僕をどこに連れていこうとしてるんだろうか?もし希望が叶うなら宮沢賢治のイーハトーヴなんかいいかな?そんなことをすこし考えて、やはり馬鹿化たことだと思う。
しなやかな足取りで夕暮れが近づいてくる。きっと明日もこんな風に過ぎていくんだろう。何事もなく、僕は生まれた場所で仏像のように畑の真ん中に一日中座り、君のことを考えている。君のこと…。そう僕にも君とちゃんと出会うチャンスがあったに違いない。
夕暮れに背中を押されるように、僕は畑の脇に作られた小さな土手のような小道を辿って家路に着いた。『僕宛に手紙が来ている』短くそういう母からバトンを受け取るように手紙を受け取り、納屋の2階に設えた自分の部屋に急いだ。きっと彼女からだろうと思った。
私の好きなバンドが解散しました
白い便箋の真ん中に、僕を咎めるようなタッチの字が書いてあった。背中がゾッとした。またか!と思った。
ワコと上野動物園の帰り、どこかの公園で彼女の好きなバンドを見たのはもう3ヶ月くらい前になるだろうか?僕がバンドマンを諦め東京から実家に帰ることを伝えた1週間後のことだった。ワコの強い希望で一度だけデートをすることになったのだ。僕は彼女に興味があった。セックスしてもいいと思った。それが正直な気持ちだった。でも、そんなことを本人に言える訳はなかった。ワコの気持ちがわかっていたからだ。遊びじゃ終われないだろう?!自分にそう言い聞かせ、雪の中を新宿アルタ前まで向かった日のことを思い出した。