俠客への道
髙田福松が綱島一家二代目の若い衆になって月日が流れた。
綱島一家が開催する賭場の見張り役を皮切りに福松の
渡世修行は始まり、今は下足番、大勢の博打客の履き物を預かり、目立たぬ場所へしまう。
お客の顔と履き物を、憶えて帰る時に、間違えずにお客にわたす。
そうしているうちに、福松はお客達がその日、敗けたのか、勝ったのかが判るようになってくる。
勝とうが負けようが、綱島の賭場で遊ぶ人達は、家に帰れば金に困っている人はいない。
帰りの車代などの料金まで考えて博打を打つ人は少ない。
福松から自分の履き物を受け取り、玄関先を出る時に自分の懐中が空っぽになっている人も珍しくはない。
こんな夜中、明け方に家へ連絡する訳にもいかずどうしたものかと思案している博打客に『お疲れ様でした。今日は中々目が出なかったようで、お車代の足しにしておくんなさい』
小銭を手渡されたお客達は帰れば金に困っていなくても、今帰る金に困っている人ばかり、ありがたく福松から小銭を受け取り、帰るのだった。
その人達が次の賭場の開かれる時にまたやって来ると玄関先には福松がいる。
前回、敗けた客達は福松に貰った車代のおかげで家に帰れたことを、当然憶えている。
『こないだは、世話になっ ちまってすまなかった』
敗けて帰った客達は、同じような言葉を福松にかける
。
それぞれの記憶の中には機転のきく若い衆、親切な若い衆だという印象が残る。
声をかける時には、心付けを渡すことを忘れない。
福松は、それを貯めていて
敗けた客に車代をわたす。
福松の名前は、賭場に集まる客達に広まっていく、客達にすれば、自分の息子くらいの福松に親近感を持ち
『福ちゃん!』『福!』と
気軽に声をかける。
それが、いつの日か『あにぃ』と呼ばれるようになっていく。
そんな頃、福松は下足番を卒業することになる。
次に任されたのは、実際に博打が行われている、広間へ上がっての仕事だった。
だからといって、いきなりサイコロを振ったり、手本引きの札をさわれたわけでもなく、博打客の灰皿を片付けたり、お茶や酒などを客達に振る舞うようなことだった。
福松は考えた《こんなこといつまでやっていても俠客なんて遠い話だ》何か考えなくてはいけない。
どうすればいいのか、福松は思い悩むのだった。
了。