小説 『俠客のいた時代』 | 高田龍の《夢の途中》

高田龍の《夢の途中》

気がついたら、72歳に成ってました。
今までずいぶんたくさんのことを書いて来ました。
あと何年生きられるのか判りませんが、書き続ける事が生存確認でも有りますし生存証明でもあります。
宜しくお願い致します。




     弍〜❻
        
             覚醒の時

 青年は、テキパキと言うにはほど遠い感じではあったが、漁師達の前で話し始めた『実は、魚河岸に皆んなが知っている、喧嘩好きがいるんです、もうとにかく喧嘩っぱやくって有名で、その人の事知らない人は魚河岸にはいません、魚河岸どころか横浜港全体でも知らない人はいません、名前は髙田って言います背が高いわけじゃありませんというか、普通より背は低いです。年齢はまだ若いです何歳かは知りませんが』

漁師のひとりが聞きます。

『その喧嘩好きの兄ちゃんがあの博打打ち達とどう関係するんだい』
別のひとりが聞きます。
『だいたい縁もゆかりもない人が本牧まで博打打ち退治に来てくれるのか、仮にそうだとしても、その人ひとりじゃあ如何にもなるまい』
『たしかにそうかもしれませんが、ヤクザにお願いしたら後々めんどくさい事になる場合だってあるんじゃないですか、魚河岸の髙田は気性は激しいが堅気です
。喧嘩っぱやいけど親切者だと聞いています。』
そこから、皆んなが思い思いに其々の言い分をぶつけ合いましたが、これという名案もなく結局、魚河岸へ行くことになったのです。
本牧の漁師の年長の男三人と青年が魚河岸へ向かったのは三日後のことでした。

古くて魚臭いトラックの荷台に三人を乗せ、運転はいつも魚河岸まで魚を運ぶ時の運転手が引き受けてくれたので、全部で五人が魚河岸を目指したのです。

本牧の漁師達が魚河岸に到着したのは、朝一番の競も終わった頃で中は人の数も少なく静かでした。

福吉との待ち合わせに約束した場所は、福吉が原因で出来たという出張交番の前でした。
青年が漁師の先輩達に話しかけます。
『この交番、どうしてここにあるか知ってますか』
三人のうちの一人が『どうしてなんだい、なんか特別な訳でも有るのかい』
青年は、少し得意げな表情になって応えます『あるんですよ訳が、実はこの交番は福吉さんの喧嘩があんまり多かったので警察が此処につくったんですよ』

その話を知らなかったらしい三人は、少しおどろいた様子だった。
その時だった、大きな屋根に被われた水浸しのコンクリートの広場の奥から、彼らに向かって歩いて来る小柄な若者がいた。
彼は本牧の連中の前に来ると『遅なってすみません、仕事が片付かなくって、だいぶ待ちましたか』そう言ってぺこりと頭を下げた。
日焼けした顔に人懐こい笑みを浮かべて、警察がわざわざ交番を造るような人間には見えなかった。
何処にでもいるような若者でしかないのだが、左眼に黒い眼帯をしているのが印象的だった。
漁師の一人が突然の相談事を詫び、話の本題が始まる
本牧で最近起きている出来事、そのために被害に遭った人間が何人もいること、そしてつい最近、死者が出てしまったことなどを話す。
『それで私にどうしろと言うんですか』
彼等の話をじっと聴いていた福吉がそう聞きます。
彼等は相談事の核心を話そうと思っていたが、自分達
の前に立っているこの若者に相談してもかまわないのかで躊躇していた。
彼等には、とてもこの若者が人殺しまでする男達を退治して貰えるとは、どおしてもおもえなかったからである。
福吉と漁師達との間に沈黙が流れた。

もし私の祖父の風貌が、映画の中で活躍していた高倉健や鶴田浩二のようであれば話は早かったと思いますが、背は低く片眼でまだ少年の雰囲気が残っていては漁師達が躊躇するのも無理は有りません。

黙っていた福吉が漁師達に向かって言います。

『話は判りました。明後日には本牧行けますから、それまで待って下さい。そいつら本牧から追い出したらいいんですよね』
漁師達は、あまりにあっさりと言う福吉に唖然としていた。

         了。