『岬に待つ恐怖』
《知らされた恐怖❾》
九月が始まった。
暦の中を季節が走って行く
。
土井も九月の五日にはこの海へ帰って来た。
当然のことだったが、織田と水盛は土井のために居酒屋の席を抑えた。
二人の前に坐る土井昂は逞しく変貌を遂げていた。
それは大学生活の四年間が影響していると言うよりも警察学校での六ヶ月間が土井を大きく変えたという事を二人は感じていた。
土井は、これまでの事を代わる代わる説明する二人の話を静かに聞いていた。
織田が潜水の免許を取り、
それだけではなく小型船舶の免許も取得したことなど
や、水盛が潜水用具一式を手に入れた事には笑顔で聞き入っていた。
つい最近、『岬』の岩肌で錆びた剣を発見した事に話が及ぶと少し驚いた表情になった。
『よくそこまで頑張ったなあ怖れいったよ、新しい職場にも慣れなくてはならない時に大したもんだ、ありがとう』
土井はそのあと眉間に皺を作った。
水盛が土井に向かって発した言葉が、彼の本音と今後の三人の進み方を知らせることになった。
『俺達が色々とやっていたんで驚いたかも知れないけど慌てることはない、土井も配属が決まってからやればいいよ、とにかくあの頃とはまったく違って船も有るしスキューバの設備も揃っているし、海の中にいられる時間だって格段に違うんだよ』
『俺が気にしてるのはそんな事じゃない』
『じゃあ何だ』
織田があらためて土井に尋ねる。
『一番の問題は俺の仕事だよ、役所や漁業組合に就職してよく岬のことが出来たと思うよ、警察はそういう訳にはいかない、お前達の考えているような訳にはいかないんだ』
土井の言葉は重く二人は黙って聞くしかなかった。
『たとえばだ、俺達の秘密にしたって、何らかの法律に触れているかも知れない
いや触れているだろうそれに、俺の交友関係に妖しい
ものが見つかれば警察は動く岬のことも直ぐにバレるだろう、警察ってそういう処なんだよ』
土井の話は続く。
『俺も警察学校に入る迄は簡単に考えていた、しかしなぁ時間が経つうちに考えも変わった、俺はお前達と一緒に宝探しは出来ないよわかってくれ、二人の計画は黙っているからさ、ただこれからも続けていくなら
今言った事は気をつけてくれ』
土井の話を聞く二人は言葉を失った。
三人が何年も温めて来た事が根本から崩れてしまったのだ。
待ち続けた九月。
待ち続けた土井昂の帰還。
それが大きく違っていたのだ。
その夜の酒の味は苦いものだった。
