小説『岬にいる恐怖』序〜六 | 高田龍の《夢の途中》

高田龍の《夢の途中》

気がついたら、72歳に成ってました。
今までずいぶんたくさんのことを書いて来ました。
あと何年生きられるのか判りませんが、書き続ける事が生存確認でも有りますし生存証明でもあります。
宜しくお願い致します。



 


     小説
  『岬にいる恐怖』
        序〜六




市長が話していた三日後は直ぐにやって来た。


いつも通り出勤すると庁舎の中が騒ついているように感じられた。


顔馴染みの受付の女子職員に声をかけた。

『おはよう、なんか今日中が落ち着かないみたいだけど、僕の気のせいかなあ』

女子職員は、防人に軽く笑顔を向けると、『そうなんです、皆さんピリピリしてらっしゃるみたいで、やっぱり東京から来られるお客様のことが気になっているんじゃないですか』

『え〜、て言うか皆んな今日のこと知ってるの』

『はい、ほとんどの方はご存知かと』

『そうなんだ、だからこんな感じなんだ』

そう言うと防人は受付のカウンターから離れてエレベーターの前に向かった。

二基並ぶエレベーターの右のドアが開き、防人と同じように並んでいた七、八名の人達がそこへ傾れ込む。


始業時間前には自分の席にはついていたい、考えることは皆同じ、だから朝は忙しい。

防人は、三日前に辞令を受けている秘書課の自分の席についた。

壁に掛かっている時計は八時四十分、遅刻ではなかったが、若手の職員達はだいたい八時三十分には出勤する、それを考えれば早いとは言えない。


防人の机の上の内線電話が鳴る、市長室からだ。

『おはようございます、防人です』

市長室からの電話は織田市長本人からのものだった。

『おはよう防人君、すまないが私の部屋まで直ぐ来てもらいたいんだが』


短い電話だった。


彼は、机の上の上の打ち合わせに必要な書類をかき集め市長室に向かった。


市長室の中には織田市長自らが呼び集めた数名の人達がそこに居た。