「代行、あのじじいどうするんですか」
組員の言葉を黙って聞いている工藤は煙草をもう一人から受け取ると火を点けさせた。
組員三人は無言で、工藤の
周りに居る。
今仕方の、小田尊という男の暴れる姿が彼等には強烈
だった。
三人にしても、工藤本人にしても、武闘派と呼ばれてはいたが、実際は経済ヤクザだった。
刃物や拳銃を使った抗争などなかなか今はない。
工藤以外にそんな抗争などに遭遇した人間は居なかった。
工藤にしても、この一○年
ヤクザ同士の揉め事や喧嘩騒ぎを経験したのは、二回ほど、だから尊の行動は信じられなかった。
三人の中で最年少の暴走族出身の組員はヤクザ同士の喧嘩をした事が無かった。
幹部達が他の組と揉めた時も、様々な繋がりや根回し
をつかい解決には金銭だった。
誰にも言える事では無かったが、映画やVシネマでの話でしか無かったのだ。
一人は尊の発砲の時、失禁していた。
しかし、それに気付いた者はいない。
それだけ全員が恐怖心に襲われ正気を失っていた。
この店の中で四人が今、考えていることは其々が自分
の立場をどう周囲に見せるかだった。
四人共、凄い勢いで頭を巡らせている。
だからなのか、無言のまま
そこに居続けている。
火を点けさせた工藤の煙草の灰が、床に落ちた。
その事に気がついたかは判らないが、工藤が話し始めた。
「あのじじいを追って見張れ、手は出すなあいつが隙を見せる時を狙って何人かで行くんだ」
工藤にしてみれば、三人に
自分の威厳を示さなくては
これからの仁和会の運営に
影響することは間違いない。
人の口に戸は立てられない
のだ。
もっと言えば工藤の立場が、
崩れてしまうような状況なのだ。
小田尊を殺さなくては話は、
終わらない処まで来ている。
失禁していた組員はトイレの中で驚くほど大量の小便
を出していた。
彼が経験した事のない恐怖だったのだろう。
彼は手洗いの水を自分の股間にかけまくった。
失禁の跡が解らなくなる様に。
トイレを出ると「いやぁ水道の調子が悪くて、水浸しになりました、参ったなぁ」それに反応する者は居なかった。
この若者の誤魔化しに気付いた者も居なかったのだ。
「とにかく、今日の事は事務所に帰っても黙ってろいいな」
三人は口々に勢いよく返事をしたが、代行は何故この事を秘密にするのか、それが解らなかった。
三人の心を見透かした様に工藤が話す。
「事務所で話せば俺の警護役のおまえ達が責任を取らされる、俺を護れなかったんだからな」
三人は、初めてその事に気がついた。
工藤は自分達の為に言ってくれているんだ。
いい人なんだ。
三人は思った。
工藤の作戦勝ちである。
「それだけじゃない、小田のタマは必ず獲る、それには小田に俺達の計画が知られてはならない、いいな」
工藤は腹の中でこれで完全に俺の立場は整ったと思った。
さらに念を押す。
「小田は古参の幹部だった、人望も厚い、小田に情報を流す奴が居るはずだ」
三人は完全に工藤の口車に
乗っていた。
工藤は尊を殺すことをタマを獲ると言った。
これも工藤の演出だった。
映画の台詞のような言い回しを使えば若い組員達には
刺激になるし小田尊の伝説
に影響されている三人には踏ん切りがつきやすくなるはずと工藤は考えていた。
三人はそれぞれが工藤の為に生命を賭ける気になっていた。
若者達を自らの周りに並べ、
己の身の安全を第一に考える、若者を育てようなどと
言う考えなどまったくない。
全てのとは言わないが、そういうヤクザが多いのは確かだ。
かつて日本最大の組織の頂点に君臨した大親分が言ったことがある。
親に見放され、世間から嫌われて、誰からも相手にされないような子供を、誰が見てやるんだろう。
そういう若者達を誰が育てるんだろう。
大親分の問いに答えられる
者はいない。