純正保守の旗を掲げ 国民に選択肢を与えよ(上) | 笠哲哉ブログ

純正保守の旗を掲げ 国民に選択肢を与えよ(上)

欧州政党政治における4大勢力


西欧の立憲君主国や共和国をモデルとした政治学上の知識では 政党政治を構成する政治勢力を大きくは4大勢力に分類する事がある 仏革命や英革命を先鞭として 第一次世界大戦における露 独 墺の帝政崩壊 そして 第二次大戦における伊の王政崩壊と 中欧や東欧でのこの二つの大戦の結果起きた諸君主制の崩壊は 西欧・北欧諸国においても立憲君主国の内実を民主共和制に近似させる趨勢の一つの要因ともなった 現在ではソ連圏の崩壊が逆に 中欧・東欧では王政復古の流れを作り出し始めているのはブルガリアのみならず 散見されるところであるが 革命によって王家が血統として途絶させられるという経緯をもってしまうと 幸運にも亡命王家をもった国とは異なり 擬似王政たる ナポレオン三世型帝政あるいは国民社会主義型独裁やプーチンのような行政権力主導の統制政権などのあいだを彷徨するという不幸な行く末をたどることになる
4大政治勢力とは 第一に 市民・国民革命の主力であって 王権を倒して誕生した 国民主権主義者 今日の自由民主主義勢力である 私的所有の保護拡充を基調とする市場経済派であって 市場の社会的あらわれである市民社会における(政府からの)自由や権利を政治上の原理とする
第二には 第一勢力の同伴者であって 充分に果実を獲得し得なかった無産階級の利益を代弁する社会主義・共産主義勢力である 究極 生産手段の社会的所有を目指し 第一勢力が結果主導権を握る 市場の自由や 議会制度の原理性を否定する
第三には無産階級や労働運動を基盤とするが 国民経済上の富の均霑を根拠に 政治権力による市場経済と社会的弱者の調整が可能とし 究極的にも生産手段の社会的所有を原理とせず 従たる調整政策としての重要公共産業の国有・国営化や富の再分配を 議会政治を通じて 漸進的に実現せんとする社会民主主義勢力である
これらの三大勢力の共通点としては 哲学的には人間 政治的には政府やその意思決定過程を支配する主権者に程度の差はあれ 絶対的可能性を認め 従って 政治の計画・企画した事を実現することで 人間が幸福になれる 転じて 理想や理念を目標に むしろ 現実を改革・進歩させるのが政治の任務と心得ている点である
これらの基調となっている人間万能主義 社会改造志向への反動が 第四の保守勢力であって 人間の頭脳の創作した 理念や政策ひいては科学・技術の万能性への不信や専門知への軽蔑が哲学的基礎にあり 慣習や伝統 個人の判断より 共同体の暗黙の了解を重んじる 本来 革命勢力とは敵対するのだが 選挙による議会構成が秩序化すると 議会の中に国民主権の牙城たる議会のなかに議会制度そのものへの反動である保守「党」が存在するということになる
概ね 欧州からみると 保守勢力・王党派がほぼ皆無である教派上の亡命・移民国家として出発し 国内最保守派が 欧州ではリベラルと分類されるようなバイアスをもち 二度の大戦でいずれも戦勝利得を得社民・共産の勢力の伸張をみなかった例外国家 米国を除いては 欧州では 自由民主主義と社会民主主義の二大勢力に キリスト教民主党勢力という 保守の要素も含む中間政党がからむ形で 政権が構成されてきた 結果 いずれの勢力の支持者も望む 産業振興や高福祉 労働者・零細企業・自作農の保護を国家の経費で賄うという政策が 戦後復興からの連続でおこなわれ その結果各国共通の国家財政破綻と行政セクターの肥大による 市場経済への寄生・間接部門の増大は 現在 新自由主義経済政策による マイナーチェンジを この政権担当二大勢力である 社民・自民にもたらしている
そもそも 共産・社会主義勢力がソ連圏という背景を持ちながら 労働者・農民・零細市民をして市場経済・自由世界秩序を脅かす 伸張をすることの防止策という 観点から 自民も社民も 政府による公共政策や富の再分配に血道をあげてきたのだから ソ連崩壊にともなって 反動が一般化したのは当然だった  


欧州に近似する我が国 社会民主勢力



我が国も明治維新以降 主として欧州の政治制度を 国情に照らし適切と判断できるものは取り入れてきた そして それを 近代国家の外皮として纏ってきたのだが 先ほどの四分類でいくと 保守以外の勢力はほぼ無力といってよいほどの小勢力でしかなかった これは政府が国民各層の政治的・社会的要求を政府の政策として予め取り入れてゆく能力に優れ また 内務省の牧民思想が 政策の実施場裏においてうまく適用されていたこともある 帝國臣民としての自覚は 相次ぐ戦争にもかかわらず 政府を中心に一致団結した国民意識を薫嬢した
ポツダム宣言受諾 停戦 占領となって 最初に 各政党が立案した 綱領や 憲法草案の類を見ても 日本共産党を除いては 無産政党すら 国体護持 立憲君主制という線では揺ぎ無かった
日本社会党を中心とする社会民主主義勢力は その中に加入戦術をとっていた社会主義協会という(現在の新社会党)紛れも無いマルキストや 社会主義青年同盟解放派(現在の革労協)同じく社会党員・総評構成団体の外皮をまとった動労(現在のJR総連・革マル派系)などの新左翼諸派を除いては 村山総理の皇大神宮参拝に見られるごとく 決して 革命勢力ではなく 戦後の空気のなかで 支持者を獲得し煽るための策略としての社会主義であって 内容は 欧州立憲君主国の社会民主勢力並みであったといえる
細川政権以降の 政界再編において マルキストよりの言説から解放された日本社会党の政治家は 現在民主党に移行し 冷戦が前提での 日米安保体制に対する評価で分裂していた 民社党 日本社会党の二派は今双方が民主党の中核を占める 総評・同盟も連合として統一され 労働者政党が二つある意味もなく 小沢民主党党首は名目上の副代表やらあるいはTVに良く出るような 新保守ないし新自由主義系の連中ではなく 実際に己の側近として選挙・党機関・国対を掌握させてるのは 連合と関係が蜜な日本社会党出身議員であってこの構図は 主義主張というよりも金と票を握る労組と一般国民へのイメージ戦術としてのネオ・リベラル若手議員の活用という西欧社民の手法そのものでしかない


革新陣営=ソ連・中共贔屓への反動形成としての「保守」


翻って 我が国の 自由民主主義及び保守陣営はどうだったか 占領下 片山・芦田の保守・自由・社会の三勢力が協調した政権の経験を経て 周辺領域で起きた朝鮮動乱を象徴的事態として 米・西側陣営と ソ・中共ら東側陣営による世界分割が国内政治の陣営割りに反映して 共産党と左派社会党に出自する社会民主主義者をも含む日本社会党の陣営と 右派社会党に出自をもつ民社党 また綱領で「人間社会主義」を謳うものの 平和志向の中道右派で市民革命肯定の潜在共和主義者である公明党という 西側よりの中道派 そして自民党というように一旦は落ち着いたものの 左傾マスコミ・進歩的文化人が使い始め擬似学術用語にまでなり 政党自身も使用していた 「革新」対「保守」という通俗政治用語の呪縛が 社共陣営による浮動票や中道右派の囲い込みのみならず 保守・自由民主量両勢力をも捕らえ始める
最近までは 改憲・自主憲法制定 (旧)教育基本法改正 原子力 核武装 自衛隊の軍隊化 靖国公式参拝 行財政改革などの保守的政策は自民党内での研究にとどまり 政治の舞台に上げるのはタブーとされてきた 一つには米国の主導する西側陣営に属するかどうか つまり日米安保条約に対する態度 をもって社共左翼陣営の属さない政治家をできるだけ幅広く自由民主党が組織してきたことが 社会民主主義者も協同組合主義者も自由民主主義者も保守も含む曖昧な「党」としての反動形成性を特徴してきた 
国民共同党党首であった三木武夫総理 初当選は日本社会党であった鈴木善幸総理 新自由クラブ党首であった河野洋平総裁など あきらかに自由主義者のなかでも社民よりの いわば社民リベラルの政治家が総理総裁にまで登りつめている 現在でも小泉・加藤・山崎氏らのネオ・リベラル路線の有力政治家を抱え 彼らの容共・社会改造志向はとても「保守」とはいえないだろう