建物状況調査・瑕疵保険・測量・越境物、そして「契約不適合責任免除」の落とし穴

不動産の売却価格は、近隣の成約事例だけで決まるわけではありません。引き渡し後のリスクをどれだけ減らしているかも、価格と、取引の公平さに関わります。この記事では、値付けの前に売主がやっておくべきことを、必要性・効果・費用とあわせて整理します。あわせて、一部の宅建業者に見られる「契約不適合責任は免除」だけで済ませる進め方の問題点も指摘します。

結論:やるべきことは三つ、省くなら理由を知ってから

先に結論です。値付けの前にやるべきことは、大きく三つあります。ひとつ、建物の状態を調べること(建物状況調査・既存住宅売買瑕疵保険)。ふたつ、土地の境界をはっきりさせること(確定測量・越境物の是正)。みっつ、知っている不具合を書面で告知すること(告知書・付帯設備表)。

これらを省いて「契約不適合責任は免除」という特約だけで片づける進め方もあります。しかし、価格は市況・時期・交渉で常に変動するものであり、値下げが特定のリスクの見合いになっている保証はありません。何を省き、何をやるかは、費用の中身を知ったうえで選ぶべきです。

根拠:それぞれの手続き、主体、法律上の位置づけ

建物状況調査(インスペクション)は、国の登録を受けた講習を修了した建築士(既存住宅状況調査技術者)が、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分を、目視・計測で調べるものです。実施の義務はありませんが、宅建業者には、媒介契約締結時に調査実施者のあっせんの可否を説明する義務(宅建業法34条の2第1項4号)、既存住宅の場合は重要事項説明で実施の有無と結果の概要を説明する義務(同法35条1項6号の2)があります。実施主体は既存住宅状況調査技術者、依頼は売主・買主どちらでも可能です。

既存住宅売買瑕疵保険は、引き渡し後に構造耐力上主要な部分等の瑕疵が見つかった場合の補修費用を、住宅瑕疵担保責任保険法人がカバーする制度です。加入には、新耐震基準(昭和56年6月1日以降の基準)への適合と、実施後1年以内のインスペクション合格が必要です。

確定測量は、隣地所有者の立会いのもとで境界を確定させる測量で、土地家屋調査士が行います。境界が不明確なまま売却すると、後日の紛争や、買主側の住宅ローン審査に支障が出ることがあります。越境物(塀・軒・配管等)は、民法上、土地所有者は妨害排除請求ができますが(民法207条)、実務では覚書で将来の是正を約束してもらう対応も一般的です。放置すると、10年(善意無過失は10年、それ以外は20年)の占有継続で相手に時効取得される可能性があります(民法162条)。竹木の枝の越境は、催告してもなお切除されない場合等に、土地所有者が自ら切除できます(民法233条)。

告知書・付帯設備表は、売主が知っている不具合や設備の状況を書面で伝えるものです。宅建業者には、重要な事実について故意に告げない行為が禁止されており(宅建業法47条1号)、売主が知りながら黙っていた欠陥は、契約不適合責任を免除する特約があっても免れません(民法572条)。

具体例:費用の一覧と、やる・やらないの分かれ目

実際の費用感を、項目ごとに整理します。

項目

必要性

効果

費用の目安

登記事項証明書等の確認

権利関係・境界の事前把握

契約後の権利トラブル防止

600円/通(オンライン480円)

建物状況調査(インスペクション)

構造・雨漏り等の劣化把握

重要事項説明の充実、交渉の材料

5万円前後〜(規模で10万円超も)

既存住宅売買瑕疵保険の付保

引き渡し後の瑕疵への備え

補修費用を保険でカバー、信用補完

戸建て5万円程度〜(検査料込み)

確定測量(境界確定)

隣地との境界の明確化

境界紛争の予防、融資審査の円滑化

民民30万〜60万円、官民50万〜80万円

越境物の是正・覚書

塀・枝・配管等のはみ出し解消

将来の紛争予防、時効取得リスク回避

覚書のみ数万円〜、是正工事は規模による

告知書・付帯設備表の作成

知っている不具合の書面告知

契約不適合責任トラブルの予防

通常無料(仲介会社が補助)

耐震基準適合証明書(旧耐震物件)

1981年5月以前の建物の耐震確認

買主の税制優遇適用、成約率向上

診断5万〜15万円、証明書発行数万円

残置物撤去・室内クリーニング

引き渡し条件の明確化

内覧時の印象向上、成約スピード向上

数万円〜(量による)

こう並べると、建物状況調査から告知書まで、全体でおおむね数万円〜100万円強の幅に収まることがわかります。これは、成約価格が数百万円変わりうることと比べれば、決して大きな金額ではありません。境界が不明なまま売って後日紛争になれば、弁護士費用や訴訟の負担のほうが、はるかに大きくなることもあります。

一方で、これらをすべて省き、「そのぶん価格を下げたので、契約不適合責任は免除とします」という一文だけで契約をまとめる進め方も、実務では見られます。理屈としては筋が通って聞こえますが、注意が必要です。価格は、そのときの市況、売り急ぎの事情、交渉の巧拙などで、常に変動します。値下げ額が、実際に建物状況調査や測量を行っていれば防げたはずの具体的なリスク(雨漏り、境界紛争、越境物など)に見合っているかどうかは、誰にも証明できません。

本当のねらいが別にあることも、否定できません。調査・保険・測量の手配や説明は、仲介会社にとって手間のかかる仕事です。それを省いて「免除」の一文で済ませれば、業者側の作業は大きく減ります。つまり、リスクを丸ごと買主に移し、自社の負担を軽くする効果があるのです。この不都合な事実は、価格設定の説明のなかで、売主・買主の双方(エンドユーザー)に、はっきり伝えられるべきだと考えます。

契約不適合責任免除は、万能ではない

結論から述べます。売主が重要な欠陥や事実を知りながら、故意に隠していた場合、免責特約は無効化され得ます(民法572条)。「契約不適合責任は免除」という一文があっても、それだけで売主・仲介会社が守られるわけではありません。以下に、免責が無効化されやすい具体例と、実務上の対応を示します。

具体例(隠匿で免責が無効化されやすいケース)

•      雨漏り・水漏れの既往を隠す:過去に発生し、修繕履歴があるのに告知しない場合、契約不適合責任が認められることがあります。

•      シロアリ被害・構造的腐朽を隠す:床下や柱の被害を知りながら説明しないと、損害賠償や追完請求の対象となります(民法562条・415条)。

•      地中埋設物・土壌汚染を隠す:埋設物や汚染が判明すれば、代金減額請求や契約解除の対象となり得ます(民法563条・541条)。

•      違法増改築・未登記の増築を隠す:再建築不可や用途制限に関わる事実の隠匿は、契約不適合を構成します(宅建業法35条・47条1号)。

•      重要な権利関係(抵当権・賃借権等)を隠す:第三者の権利があるのに告知しないと、契約解除や損害賠償に発展します。

実務上のポイント(必須対応)

•      書面での開示を徹底する:物件状況報告書・重要事項説明書に記載し、写真や修繕領収書を保存しておきます。

•      インスペクションや瑕疵保険を提案する:買主の不安を減らし、後日の争いを予防します。

•      説明記録・同意書を残す:故意の隠匿が認められれば免責は無効化され得るため、仲介は説明した記録を残しておきます。

つまり、「安くしたから免除」という進め方は、買主にリスクを移す効果はあっても、売主・仲介会社の責任を完全に消すものではありません。知っていて隠した事実がある限り、免責特約はその部分については機能しないのです。

注意点

いくつか注意点があります。

まず、費用を売主・買主のどちらが負担するかは、法律で一律に決まっているわけではなく、契約交渉で取り決めます。次に、確定測量は隣地所有者との調整に数週間〜数か月かかることがあり、売却スケジュールに組み込む場合は早めの着手が必要です。また、すべての物件で全項目が必要なわけではありません。マンションの一室であれば土地の測量は不要ですし、築浅であれば耐震基準証明も不要です。物件の種類・築年数に応じて、必要な項目を専門家と一緒に選ぶことが大切です。

最後に、「契約不適合責任免除」の特約自体は、宅建業者が売主となる場合を除き、個人間売買では有効です。問題は、免除そのものではなく、リスクの中身を説明しないまま、価格の話だけで押し切ることにあります。

まとめ

値付けの前にやるべきことには、根拠があります。建物状況調査、瑕疵保険、確定測量、越境物の是正、告知書の作成。これらは、価格を決める材料であると同時に、売主・買主どちらにとっても、引き渡し後のトラブルを防ぐ備えです。

「そのぶん安くしたから、あとは免除」という言葉だけで済ませず、何にいくらかかり、何を省いたのかを、具体的に確認してください。住宅流通合同会社(千葉県知事(2)第17629号・不動産業務40年)は、西白井から、費用の中身も含めて、隠さずご説明します。

 

出典:宅地建物取引業法34条の2第1項4号・35条1項6号の2(建物状況調査の説明義務)、宅地建物取引業法47条1号(重要事項の不告知の禁止)、民法572条(契約不適合責任の免責特約の制限)、民法162条(取得時効)、民法207条・233条(土地所有権の効力・越境竹木の枝の切除)。

 

千葉県知事免許(2)第17629号

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