同意書にサインして、僕と兄貴は何も話さないままとても重い気持ちで家に帰りました。

次の日も仕事でしたが、とてもじゃないけど寝ることなんかできるはずもありませんでした。

3月19日

ほとんど寝れないまま仕事にいきました。

現場で8時の朝礼を終えて、仕事がはじまりました。

確か仕事が始まって30分ぐらいだったと思います。

また僕と兄貴の元に病院から電話がかかってきました。

「すぐに来てください」

それだけの内容だったけど、僕と兄貴は急いで用意をして病院に向かいました。

もう覚悟はしていましたが、もしかしたらモルヒネで急激に回復したんじゃないか、そんなあり得ない期待をしていたのも確かです。人間ってどうにか自分の都合のいいように考えたがる生き物なんですね。

でも、現実はそんな甘くはありません。

おふくろがいる病室が見えてきたらあきらかにいつもと違う雰囲気を感じました。

おふくろは入院生活も長く、常に明るく前向きな性格だったので看護婦さんや他の入院してる患者さんともとても仲が良かったのです。

病室の前で看護婦さんが目に涙を浮かべながら「お母さんが待ってます」って言ってくれました。

ただ寝ているようにしか見えませんでした。

いつもは辛そうだったけど、その時の顔はとても穏やかでした。

僕は本当に寝ているだけにしか見えなかったけど、先生が「お母さんはよく頑張りました。最後は安らかに行けたはずです」

なんてお決まりのセリフをいい、午前何時何分ご臨終ですと言いました。

もちろんそれが現実でそうやってやらなきゃいけない決まりなんでしょうけど、先生のその言葉がなぜか無性にイライラして、僕は「うるせーな、今すぐここから出ていけよ」と言ってしまいました。

たぶんおふくろが死んだことを認めたくない本当に馬鹿でガキな僕だったからです。

後でになりますが冷静になってからちゃんと謝りに行きました。

普段人前じゃ絶対に泣かない、僕も兄貴もこの時ばかりはかなり泣いてしまいました。

看護婦さんや他の患者さんもあいさつに来ては泣いていました。

平成28年3月19日おふくろは48歳で亡くなりました。

僕は本当に無力でした。