本シンポジウムは上智大学イベロアメリカ研究所によって共同研究として行われた「メキシコ革命の100年:歴史的総括と現代的意義ー国際比較の観点から」の研究報告を基調としメキシコ現代史の専門家であるルイス・バロンメキシコ・経済研究教育センター教授を招き、一般に公開された。

 私自身は専門的関心のある中央アジア現代政治における権威主義及び1917年のロシア革命との比較という視点から興味を持った次第である。

 自身の専門分野でないため綿密な理解はできなかったのが正直な感想だが以下を自分なりの要約とする。

 一番最初に講演されたのが、ルイス・バロン氏である。氏はメキシコ革命の性格として①地域的な特色によるバラバラな革命像②文化的に創られた一枚岩の革命像のふたつを指摘された。その後現代における意義として

革命後の革命政府による権威主義体制の下で革命神話を正統性とした体制が長期間続いたと同時に、社会の広範な領域にも浸透していった事を指摘した。しかし社会(市民社会?)の側を時の指導者がただ欺いていたと言えない点。つまりシンボルとしての革命としてある一定程度ではあるが富の再分配という思想は社会からの支持を得ていたという大変興味深い話をされた。革命政党のプリが野党に転じた後の現代政治においては象徴的な言い方だったが一般市民は「革命的はYES,革命はNO」という態度だと表現されていた。その後革命小説が描く歴史と歴史学の違いなどに触れられていた。

 次に講演されたのが岸川毅上智大学教授である。氏は最初に共同研究参加者のメキシコ革命の性格としてとらえにくい側面を①中心となる絶対的革命指導者の不在②なんらかかの体制イデオロギーを見いだせず、指導者によって価値観が異なる③到達点がどこか自明でない。という三点を指摘された。

氏自身は現代政治が専門領域であるため、革命体制の制度化について述べられた。要約されたところではメキシコの革命体制は非常に制度化された権威主義であったこと。政党と選挙に関しては当初から議院内閣制のもとでの複数政党制の外観があった点とヘゲモニー政党制的特徴が70年も続いたことを挙げられ、その要因としては疑似民主主義体制の下で革命政党が社会のいたる所にまで浸透しており、政党認可制や選挙における集票メカニズム及び改ざんが存在し、1988年以降本格化した民主化のもとでも10年間に4度の選挙制度改革などが実施された事が指摘されていた。このような体制はアジアとの共通性が見られる事の例として台湾の国民党体制、シンガポール及びマレーシアを挙げられ革命及び独立達成を先導した政党と経済発展の担い手としての政党の姿が権力維持に有効に作用した点を述べられた。野党については50年代から登場した「勝てない野党」の存在を指摘されていたのが印象的であった。最後に革命政党による疑似民主主義の下でも議院内閣制にある種のプライオリティーが置かれており、全体主義的なソ連に嫌悪感を感じている指導者もいたとのことであった。

私は岸川教授の講演を聞き終え、所用のため退席したが、非常に興味深いお話であるとともに、自身が知らない領域であったため、貴重な時間であった。やはり興味深かった点はメキシコの政治文化も含める文化全体の中で富の配分という理念が現実問題として重要な要因となり続けている点。ヘゲモニー政党制の下で70年にも及び権力が保持されていた点。指導者や政党自身がおそらくアウトサイダ―としてではなく、制度化された体制の中で振舞っていたことに主たる関心を示すことができた。