月が中天に辿り着く。

荒々しい黒雲が、
切り裂かれた雲間を見せながら、
恐ろしい早さで流れて行く。

まるで月が動いているような、
錯覚を覚える。

月明かりに浮かぶ城壁の上で、
サウザードはあたりを見回した。

殺気に満ちた戦場が開戦の時を待っている。

「ユリウス。
奴らを十分に引きつけるまで、
こちらから攻撃を仕掛けるな。
あの塔を敵が越えたら、
一斉に弓を放て。
とにかく、時間を稼げ。」

ユリウスが、青ざめた顔をあげた。
「陛下。」

「心配はいらぬ。此の戦いに決着をつける
時が来たのだ。
大地の精霊がついに動いた。
兵士には、不用意な行動を避けるように伝えておけ。
徒に命を無駄にせぬよう。
かといって、死を覚悟する事も忘れぬように。
人はみな、敵に屈する前に、己の油断に敗北するのだから。」

湿気を含んだ、大きな風が吹いた。
サウザードの衣が宙に舞う。
「…ユリウス。あの少女を守ってくれ。
おそらく、君の守りが無ければ、何も出来ぬだろう。」

「どうお守りすれば良いのか分かりません。」
ユリウスの頬を涙が伝った。

「今と同じでいい。
私に仕えてくれたように。
それで、十分だ。
アレス。千年後の今日、ユリウスと、
私を…。私の来世である少女を此処へ連れてくるのだ。
過去を知る、
なんらかのきっかけとなるだろう。」

再び雨の気配が近付く。

「アレス。行こう。私をあの地へ運んでくれ。
そして、お前はすぐに引き返すのだ。」

「陛下…。」

「これが最期の命令だ。聞いてくれるな?」