私は日本に3年ぶりに帰国しましたが、日本でHPVワクチンが未だに進まないのが不思議でなりません。原因はメディアの過剰な解釈、医療政策決定の構造、EBMや公衆衛生に力点を行わないなど様々な要因があるとは思いますが、医師として現在のこの日本の接種状況が好ましいとはとても思えません。今日は世界のHPVワクチンの状況についてお話しさせてください。

 

世界のHPVワクチン事情は?

 

私は英国で長く医師として勤務していましたが、HPVワクチンに関しては常に積極的勧奨の基での接種でした。基本NHS(国民保険サービス)が主導になって、HPVワクチン接種を積極的に促していた印象です。2018年の12~13歳女子の接種率は83.3%、スコットランドでは86% と高く、2019年には「12歳~13歳の男子」も積極的勧奨に加わりました。

 

HPVワクチンの影響は?

 

このようにHPVワクチン接種を国のプログラムとして早期に取り入れたイギリス・オーストラリア、米国・北欧などの国々では、HPV感染や前がん病変の発生が有意に低下していることが報告されています例えばフィンランドの報告によると、HPVに関連して発生する浸潤がんが、ワクチンを接種した人たちにおいては「全く発生していない」とされています。フィンランドの報告と同様に、英国や豪州などでも近い将来前がん病変の減少だけでなく、子宮頸がんの罹患・死亡の減少という結果が発信されると考えられます。

 

特に興味深いのは最近イギリス、オーストラリア、米国における調査により、ワクチン接種世代と同世代の「ワクチン接種をしてこなかった人々」においてもHPVの感染率が低下したという報告がされています。この現象は「集団免疫」と呼ばれ、公衆衛生学的にもワクチン接種における一つの目標とされています。ワクチン接種率が高まると、HPV感染数そのものが減少するため、社会全体のウイルス感染率が下がっていきます。ですからHPVワクチンを接種することは実は自分をウイルスから守るだけではなく、若年世代の女性・男性全体がHPVワクチン導入による集団免疫の恩恵を受けることになります。

 

自分の子供に接種するだけで、「子供を守るだけでなく、周りの人も子宮頸がんから守れる」。そう考えるだけでも受けるメリットは十分あるのではないでしょうか。