「先生までも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査をしてくれないのですね」。

 

そう不満を漏らしたのは、総合診療科の私のもとに紹介されてきた20代の男性でした。倦怠感が続いていたため、まず保健所に連絡をしましたが、検査の適応はないと言われました。更に地元の診療所4カ所に連絡するも、それら全てから「できることはないから来ないでほしい」と受診ができませんでした。もう一つの診療所からは診察はなく、受付けで抗菌薬の処方箋を渡されました。

 

その後、数日経過を見ても症状が改善しないため、再度保健所に電話すると「検査の適応ではないので、近くの診療所を受診するように」と言われたそうです。最終的に彼の友人医師に必死で頼みこみ、私への紹介にこぎつけようでした。

 

診察してみると、この男性はCOVID-19 ではなく、「不安とうつ病による倦怠感」であることが分かりました。職場の上司との関係がうまくいっておらず、解雇に怯え、不安で眠れない日々を過ごしており、非常に辛い状況だったことが原因でした。私はこの男性にはCOVID-19ではなく社会的不安が倦怠感につながっている可能性が高いと伝えました。すると「迷える羊」のような不安感から解き放たれ、笑顔で外来を後にしてくれました。

 

このように安心を求めて受信されている患者は、コロナ感染が始まった当時は特に多かったと感じます。そして多くの医療機関で過度にCOVID19を恐れるが故に、適切な診療を受けられない患者たちも多くいました。しかし発熱患者であっても、診察してみると尿路感染のような一般的な感染だったことが大半でした。コロナ感染よりはむしろ普通の風邪や尿路感染などの一般的な感染のほうが、統計的にはCOVID-19 よりはるかに可能性が高いからです。

 

もしかしたらこれを読んでいる読者さんも、「迷える羊」になった経験がある方もいるかもしれません。

最近はこういった状況も随分改善されてきましたが、まだ医師によっては「発熱患者はみない」という方もおられるようです。

 

日本は統計を見る限りとても医療崩壊に近い状態とは言えず、他の国と比較し対策病床数にもかなり余裕があるようです。では、医療機関に余力があるのにもかかわらず、なぜこのような事態が起きたのでしょうか。

 

今回はこの原因について皆さんと一緒に考えていこうと思います。