#1
私は何故、この家に生まれてきてしまったのだろうか?
いや、家と呼べるかは怪しいところです。
“巣窟”と呼ぶにふさわしいかもしれません。
私は、そんな洞穴のような場所で、十四人兄弟の末っ子として生まれました。
そこに、両親を入れて十六人、誰と誰の子供か分からない顔の青いいとこ等を入れて三十八人。
皆、性的欲求を満たすことしか考えておらず、ろくに読み書きもできないので、まるで獣のように生きています。
しかし、私は何故か、読み書きのできる利発な子供でした。
一体何故、私だけが…もし私も皆と同じように脳みそが空っぽだったら、きっと楽しく獣のように生きられたのに。
どうしてこんなに中途半端な頭脳を持って生まれてきてしまったのだろうか。
どうしようもない憤りを感じて、親と呼ばれる存在に当たり散らしてみても、言葉がほとんどワカラナイ両親は、何を言っても微笑むばかり。
しかもその笑顔はとても朗らかで優しく、怒りや悲しみなどイツノマニカどこかへ行ってしまうのであった。
“はぁ、もういっそ死んでしまおうか”
そんな私の気持ちを察したかのように、お腹の大きな十歳の妹が、何も言わずに私の手を握り微笑んだ。
私はそんな妹を見て、自分はなんてちっぽけなんだと、救いようのない自己嫌悪に陥るのであった。
「今夜も月が綺麗だね」
寄り添いながらボクたちは、魔性の月を、じっと見つめた。
#2
ボクの家では、ゴキブリを二匹飼っている。
名前は、お父さんとお母さん。
毎日せっせとせわしなく蠢く。
たまにボクに飛びかかって攻撃をしてくるので、ボクはあまりこの二匹が好きではない。
もう幼い頃から何度も何度も噛みちぎられてきているので、十歳にしてボクの体はボロボロです。
生憎、まだこのゴキブリに効く殺虫剤は開発されていないようです。
宇宙やAI開発にお金と労力と情熱を傾ける暇があるのならば、このようなゴキブリ退治の特効薬を開発して欲しいものだと、ボクは毎日毎晩思うのです。
おやおや、今日も怒号が聞こえてきたぞ。
そうか、もう朝になったのか。結局一睡もできなかった。
まぁ、いつものことだけど。
でもさ、きっとさ、緊張しているせいもあるよね。
だって今日は、ゴキブリを炙りを堪能しようと思っているから。
お父さんゴキブリが大好きな、お酒とタバコと麻薬を使って、この”巣窟”と呼ぶにふさわしく、家と呼ぶにはあまりにも残酷な空間を、焼き払いたいと思っているから。
応援してください。はい、頑張れ。頑張れ。
もっと応援してください。はいはい、頑張れ頑張れ。
楽しいな。想像するだけで胸が熱くなる。
痛めつけるって楽しいな、楽しい。
泣き喚く姿が待ち遠しい。
あれ?
あーあ。
ボクも二匹とおんなじじゃん。
結局ボクも、二匹とおんなじじゃん。
そっか、結局ボクがいけなかったのか。
ボクという悪しき存在が、あの悪しき二匹を作り出し暴走させてしまったのか。
ハハハハハ、ハハ。
ハハハ。
人間ってよく燃えるかなぁ?
一番最初の燃料は、この、ボクにしよう。
さようなら。
助けてくれなくて、ありがとう。
この遺伝子を断つ決心をさせてくれて、心から、ありがとう。
#3
俺が人を殺すのに特に理由なんて無い。
初めて人を殺めたのは中学三年生の時。
部活の顧問の教師が素行の悪かった俺の胸ぐらを掴んできたので、かっとなりポケットに忍ばせておいたナイフで首を一刺ししたのであった。
初めてにしては見事なものだった。
あの感触は今でも忘れない。
その勢いで俺は、普段からムカついていたクラスメイトと、他のクラスの生意気な少年を手に掛けた。
笑いながら、悦に浸りながら。
一人目のクラスメイトは喉元を刺して即死させ、二人の少年はハラワタを刺して半殺しにして苦しませた。
気持ちよかった。
下半身が反応するのが分かった。
俺はすぐさまスボンのチャックを開け行為に及んだ。
女子の悲鳴が聞こえた。
しかし、それも俺にとってはただの興奮材料だった。
絶頂へはスグに達した。
瀕死状態で血液と精液まみれのその少年は何より無様だった。
しかし、普段の行いが悪いから当然だ。
この少年は毎日威張り散らし毎日誰かを傷付けていた。
バチが当たったのだ。
いや、俺がバツを下したんだ。
そう、俺は正義を執行した。
俺は何も悪くない。
この学校という"巣窟"と呼ぶにふさわしい組織で俺は、ただただ正義を執行したに過ぎないんだ。
咎められる謂れは無い。
裁けるならば裁いてみやがれ。
どっちが悪で、どっちが正義か。
しっかりと見極めて納得のいく説明をして頂きたい。
いや、して頂きたかった。
それから俺は、何の裁きも受けず、胸に響くようなお言葉も貰えずに、ただただ野放しにされた。
そこから今の今まで俺は人を殺し続けている。
理由無く、虚しさや喜びもなく。
ただただ自慰やSEXのように。
衝動的に、情動的に。
今日も、俺は、この"巣窟"と呼ぶにふさわしい世界で、人を、殺し続ける。
殺し続ける。
#4
涙が出てきた。
この"巣窟"と呼ぶにふさわしい卑しい空間では、エロティシズムを謳い様々な性行為が行われている。
病んでいる。
現代社会の膿が集められたかのような空間。
此処にいる人たちがいなくなったってこの世界は何も困らない。
寧ろ良く廻り出すかもしれない。
そっか、そうだな。
世界の為だ。
僕の手を汚して差し上げましょう。
手始めにこの女から。
次はアイツ。
そして最後はこの私を。
殺してしまおう。
この薄暗く穢れたネオンに照らされた空間を。
赤く鮮烈な血液で染めてあげましょう。
さぁさぁ最後の興奮だ。
皆様、御一緒に最高の快楽に浸りましょう。
死という行為に及びましょう。