年末ということで、吹奏楽コンクールの演奏を聴いてみました。

手に取ったのは2010年の全国大会の実況録音、中学校の部より。あくまでもCDとして聴いた感想です。

このCDは、この瞬間、市場にはあまり出回っていないかもしれません。

10年以上も前の中学生ですが、ものすごいハイレベルな演奏です。

 

Vol.1は前半の部のトップバッターから6団体の課題曲と自由曲を収録しています。銅賞は2団体、銀賞4団体、金賞なし。(これでも金賞ないんか!)

 

最初の団体は、群馬県 /伊勢崎市立赤堀中学校吹奏楽部。
課題曲(Ⅳ) 汐風のマーチは、ハーモニーが濁ってしまったり、リズムがつんのめったりしていたりしていますが、溌剌とした若々しい演奏。好感が持てる演奏でした。全国大会初出場でいきなりトップバッターはかなりプレッシャーだと思います。自由曲のハリソンの夢(作曲:グラハム)は、聴いた感じからも疑いなくかなりの難曲、なぜにこんな難しい曲を中学生が演奏するんだという感じです。演奏もびっくりするくらいスケールも大きく、この曲をよくものにしていると思いました。緩徐の部分ではとても美しい瞬間がありました。前年は西関東大会銅賞でしたが、2010年に大化けして全国大会にやってきました。埼玉の強豪が西関東大会を抜けてきたことはすごいことです。


二番目は福岡県 /宇美町立宇美東中学校吹奏楽部。

宇美町を初めて知りましたが、福岡市のベッドタウンの人口3万人程度の町のようです。wikiを見ると中学校は3つあるようです。

こんな小さな町からですが、2008年からすでに全国大会に出続けています。

課題曲(Ⅰ) 迷走するサラバンドはもちろんコントロールの範囲でですが、迷走する感じが出ています。
自由曲の吹奏楽のための神話~天の岩屋戸の物語による、は1970年代から演奏されていますが、いまだに取り上げる団体があって、2021年度には全国大会でも2団体が取り上げていました。日本的な美しさを持つよい曲ですね。NAXOSに下野竜也が管弦楽バージョンで録音しています。宇美東中は、まっすぐ、ソツなく演奏、透明感のあるサウンドで神話の世界をよく表現。迫力も申し分なし。最後のクラリネットのハイトーンもしっかり決めていて、すごいと思いました。銀賞。

 


3番目は埼玉県 /越谷市立北中学校吹奏楽部。
まず、課題曲(Ⅱ) オーディナリー・マーチは曲自体が他の課題曲に比べて聴き映えせず、リズムが揺らぐとあっという間にマーチのキャラクターを損なってしまいそうです。この曲で良い点得るのは大変そう。にもかかわらず抜群の安定感と余裕のある感じが素晴らしい。
自由曲の歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より,ですが、冒頭からこの集中力とバランスの良さはなんなんでしょう。休符に至るまで効果的で計算しくされた感のある表現はそれ自体すごい迫力です。一音一音、響きを大事にしている感じと、聴かせどころできちんと聴かせるところにも指揮者の構成力の高さを感じます。さすが西関東大会を突破しているだけあり、ただの上手なだけの演奏ではないです。惜しむらくは、銀賞だったこと。歌劇であるものの、もしかしたらメロディをまっすぐ表現しすぎて歌の要素が少なかったからですかね。もう少しで金賞だったんじゃないかな。


4番目は山口県 /周南市立岐陽中学校吹奏楽部

恥ずかしながら周南市という地名がピンと来なかったので調べてしまったのですが、2003年に2つの市と2つの町が合併して生まれた名前のようです。徳山市という名前を聞くとピンとくる人も多いのではないでしょうか。徳山駅は新幹線も止まりますし。

課題曲(Ⅰ) 迷走するサラバンドは、凹凸があって細部まできれいに表現できていて。聴きやすいサラバンドでした。ユーフォニアムとファゴットの二重奏の部分、この二つの楽器で聴かせるのはなかなか難しいものがありますが、きれいに表現しています。ファゴットがうまく絡んでいて上手ですね。

自由曲の交響詩「ローマの噴水」より、は曲自体効果的ですが、時間と場所の違いのある噴水のキャラクターをこの制限時間で、しかももとは管弦楽の曲を効果的に表現するのはなかなか大変に思います。正直、冒頭、あれ?という感じがしましたが、クライマックスの昼のトレヴィの泉はバランス良くて、雰囲気が出ていました。いずれにしても中学生でここまで、ってすごいことです。銀賞


5番目の宮城県 /仙台市立向陽台中学校吹奏楽部
課題曲(Ⅳ) 汐風のマーチは明朗快活で、若々しいマーチになっていました。あまりにもさわやかで若干印象に残らない気もしましたが、ソツなく演奏することも相当技術がいると思いますので、これはこれでなかなかの演奏だと思いました。

バレエ音楽「ロメオとジュリエット」より、はまず課題曲とのコントラストが面白い。あと、なかなかあまり聞かれないサウンドです。華やかで、ともするとガチャガチャしている印象なのに、全体としては活き活きとしていて不思議と引き込まれてしまう。一人ひとりの技術が高いのと、それを最大限引き出すとこういうサウンドになるのかな。ロメオとジュリエットの複雑な音楽にうまくはめ込んできている印象を持ちました。点数をつけるとなると評価は割れそうですが、越谷北中とはまた違う迫力があります。2010年全国初出場で銀賞。その後、この学校は2019年に全国で金賞を取っています。


収録6番目の愛媛県 /松山市立南中学校吹奏楽部、

課題曲(Ⅱ) オーディナリー・マーチの難しさを感じさせるような演奏だったかもしれません。何が悪いってことはないのですが、自分には重く聴こえてしまいました。

自由曲の喜歌劇「こうもり」セレクションは、柔らかくて優しいサウンドで、自分は好きです。歌もよく感じられましたし、心地よい響きが随所にきかれていて、素晴らしいと思いました。前のロメ・ジュリがドラマチックで迫力があっただけに、こちらは若干、普通の上手な演奏に聴こえてしまったのかもしれませんが、もうこれは好みの世界でもあると思います。銅賞

 

そういえば、自分はこのこうもりという曲をきちんと原曲を聴いたことがないことに気が付きました。2022年になりましたら、これをきっかけにちょっと聴いてみたいと思います。