昨日、マルチ商法のセミナーに参加してきた。
今は、ネットワークビジネスというらしい。
友達のAちゃんの話から、それがマルチ商法であると薄々気付いていた。
でもそれが本当にマルチ商法であるなら見てみたいという好奇心、
そしてもしかして本当は良いものなのかもしれない、という若干の期待、
によって、その「勉強会」に参加してみることにした。
その流れはこうだった。
まずAちゃんと普通にお茶をしている。
世間話で盛り上がっていると、Aちゃんの友達Bさんが途中参加する。
私はBさんとは初対面だった。
だけれど、Aちゃんの友達なら、ということで、新たに友人関係が広がるのを期待して、
Bさんの参加をOKしていた。
そこでは全く健康ドリンクの話題は出なかった。
その後昼過ぎに、セミナー会場に移動する。
セミナー会場では100名程の参加者がいた。
老若男女さまざまな人がいた。
私はAちゃんとBさんの間に、サンドイッチのように挟まれるようにして3名一組で座った。
最初、会場を盛り上げるためなのか、抽選が行われた。
私を含む「ハズレ」を引いた人には、3cm×3cmの小さな駄菓子が配られた。
一等から五等まであったが、当選した人もたいした景品ではなかった。
そしてセミナー講師による、核酸が入った健康ドリンクの紹介が行われた。
その内容は薄かった。
きちんとした学術論文も、エビデンスもなかった。
彼の話術はうまかったが、彼の話が熱を帯びれば帯びる程、
私の頭は、白々とした思いに包まれていった。
彼が医学の何を知っているのだろう?
そしてこの会社が、医学の何を知っているのだろう?
右隣に座るピュアなAちゃんは、すっかり心酔しきっている様子だった。
感動しながら聞いていた。
左隣に座るBさんは、時々こっそり一瞬、私の様子をうかがっていた。
私は、顔だけ前を向きながら、それに気づいていた。
その瞬間だけ、私は真剣に聞いてるフリをした。
そして実際にその健康ドリンクを飲んで健康になった、という
会員二名による体験談が披露された。
どの話も、
「○○(病名)が治りました!」
「○〇(病名)が治ります!」という決定的な言葉はなかった。
多分私が今、体調が良いのは、この健康ドリンクのおかげです!
という「何となく論」であった。
決定的な言葉がないのは、それが法に触れる行為だと知っているのだろう。
そしてセミナー講師による、自分がこの健康ドリンクを売るメリットの話があった。
自分が新規会員を集めれば集めるほど、組織の上の方に行けるシステムだった。
そして、新規会員を集めれば集めるほど、自分にお金がたくさん入ってくるようだった。
また新規会員を既定の人数以上集めることに成功した人は、
今年はハワイに行けるらしい。
去年は沖縄だったという。
そしてセミナーは終了した。
Aちゃんは、「りょうこちゃん、一緒にやろうよ!そして一緒にハワイ行こう!健康になろう!」
と言った。
Bさんは、「りょうこさん、どうだったかしら、私も健康になったし、ビジネスとしてもいいのよ」
と言った。
私は「私には少し難しかったわ。旦那さんに相談してみるね」
と微笑んだ。
Bさんは、「まあ、セミナーは何度でも参加できるしね」
と言った。
(その日が来る未来は絶対ない)
と思いながら、私はニコニコしたままだった。
令和も5年になるというのに、いまだにマルチ商法が白昼堂々と行われていることに、
私はすっかり呆れかえってしまった。
ネットワークビジネスという言葉に書き換えられることによって、
何か素晴らしいもののように、印象操作されていると思った。
セミナー講師の話から、その健康ドリンクで健康になる根拠はまるで無いと思った。
むしろ甘すぎる味から、飲みすぎると糖尿病になるかもしれないと思った。
そして何より、自分の友人、知人、親戚などを、「一人集めると〇万円」という
お金に換算して考えるようなやり口は、私は正直言って大嫌いだった。
こんな違法スレスレな販売方法が、何故いまだに行われているのだろう。
会員のメンバーたちは、本当に自分が健康になると思って続けている人なのかもしれない。
ちょっとした小遣い稼ぎ、副業、のつもりなのかもしれない。
でも、マルチ商法と引き換えに、
「友情」「信用」「自分の大切な時間」という、人生でのかけがえのない大切なものを失っていくのだろう。
帰る途中、
Aちゃんと、このマルチ商法の健康ドリンク抜きで友達関係を続けるのにはどうしたらよいか、
私はただそれだけを考えていた。