父親の影響で、自分はテレビの洗脳を受けなかった。それ故、周りのみんなは洗脳されてるから自分だけ仲間はずれになった。中学までは小さい頃からずっと一緒にいる人たちばかりだから困ることはなかった。



高校になったときだった。周りは高校になって知り合った初めての人たちばかり。馴染むのに必死だったのはみんなも同じだが、そこで必要になったのはテレビの知識、テレビの価値観だった。


当たり前のようにスマホを持っていたのも、最近の有名人のニュースから話題が始まるのも、誰かが言って流行の言葉でウケを狙うのも、みんなが笑うのを理解できずに和に加われないのもほとんどテレビの影響でしょ。


当たり前のように取り残されていったよね。
そこから俺はおかしくなっていく。



高3で鬱になった。自分を変えようと思う理由には困らなかった。大学では進んで知らない人たちの和に加わり、笑いを取った。可愛いと思う子にはひたすらアタックして振られ続けた。大学って彼女ができる場所っていうから。


難しい英語の講義をとって、ゼミで教授から褒められようと何日もかけてプレゼン資料作って、高い理想掲げて周りからちょっと引かれたりして。そして飲み会で「若いうちは失敗しなきゃな!」なんて言ったりして泣きながら肩を組まれたりして。



でも不思議とアパートの部屋のテレビはほとんどつけなかった。見てると落ち着かなくなった。つけながらなにかすることができなかった。4年になってテレビを押し入れにしまった。もう1年以上テレビを見ていない。だけど困りもしない。困ったこともない。


本能的なところで、もしくは親父の遺伝子レベルのところで、自分は他人とは違う、というアイデンティティが、周りの雑音が流入してくるのを防いでいた。


自分は他人とは違うを恥じていた自分。気にしてなかった親父。遺伝子が溶け始めている。



気がつけば、周りを責めまくっている。自分が不幸なのは周りの人のせいだ。夢を壊して一般論を押し付けるくそみてぇな大人のせいだ。こんな国に産まれたからだ。海外じゃこんなんきまりじゃねぇ。拷問だ。俺が不幸なのはお前らくそのせいだ。



そして親父のことを思い出して、むせび泣く。
俺は親父を笑顔にさせられなかったよ。
こんな息子だったから、年々しわが増えていくんだよな。なんでなんだよ。



魂が空中で4分裂する。

外では鳥さえ鳴かない。外野は静かだ。



俺も洗脳されてんだよ。
決まりを破って大人の前で怒られてるときにすみませんっておとなしく謝るんだよ。俺は。
1時間後に 死ね を1000回くらい繰り返してるのに。



聖地のストリートはどこにいったんだ。