【河野外務大臣の発言について】

 気になるツイートがありました。



 <blockquote class="twitter-tweet" data-lang="ja"><p lang="ja" dir="ltr">「戦争は外交の失敗?」<br>河野「戦争は外交の延長という考え方もございます」げげ</p>&mdash; buu (@buu34) <a href="https://twitter.com/buu34/status/937910392180719617?ref_src=twsrc%5Etfw">2017年12月5日</a></blockquote>
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ツイート主によると、前後の流れは以下の通りだったそうです。
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民進藤田「戦争をさせないことが、外交の最大の意味ではないかと思いますが、仮に戦争に至るといった場合は、外交の最大の失敗ではないかと思いますが、いかが」

河野「まぁ戦争と外交については、色んなご意見が古今東西ございます。今、藤田委員がおっしゃったようなことを言う方もいらっしゃれば、戦争と言うのは外交の延長であり、外交というのは戦争の延長なんだと言うことを申し上げた方もいらっしゃいます
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検索したものの国会の議事録を拾えなかったので、この発言が真実であるかどうかはわかりません。


ただ、内容に関していえば「戦争は外交の延長」という考え方は、まったく正しい認識です。

河野大臣は直後に「外交は戦争の延長」と逆も並べて言っているため、大臣の本当の認識はわかりませんが……。



ともかく、外交と戦争は少なくとも一体のものであり、より正確に言えば「外交の一種として戦争がある」のです。国家間の状態は「外交をしているか、さもなくば戦争をしている」というような二者択一のものではありません。国家間は常に外交交渉を行っており、ときおり外交と平行して戦争を行っているのです。

河野大臣の発言は、(逆順も言っているとはいえ)外交と戦争を切り離せないものだと考えている点に於いて、クラウゼヴィッツ的に非常に安心できるものです。


これに対して
「戦争とは、外交が破綻したのちに行われるものだ」 という考え方は、完全に間違っています。

間違っていて、そして、極めて危険な考え方です。

万が一この考え方に基づいて
「さあ戦争が始まった、これからは軍人の時代だ、外交官連中はさっさと退場するんだ

などという声が上がったら、断固としてそのような声と戦わなければなりません。



しかし、このツイートに対する反応をみてみると、ツイート主も含めて、上記の誤った認識をもっている人がとても多いことが覗えます。


河野大臣の発言を批判する声には、二種類あるようです。
一つ目は「国家の目的達成のための手段として戦争を用いることを、平然と語るなんてもってのほかだ!」という声。
もう一つは「戦争とは外交が破綻したあとに起こるものだ、河野大臣の戦争認識は甘い!という声。



ただ、この二種類の批判を比べてみると、まだしも前者の方が戦争について正しく認識しているといえるでしょう。

前者の批判をする人は、「戦争は国家の目的達成のための手段である」と認めた上で、「その手段を行使するな」といっているのです。その意見の背景にある安全保障の認識はお花畑かもしれませんが、戦争それだけに関する認識は間違っていません。


一方で、後者の批判をする人は、戦争についての認識が根本的に誤っています。そして、いわゆる「保守派」を自称する人達ほど、後者の意見が多いように見えます。彼らは「サヨクは戦争について全くわかっていない」とよく言いますが、戦争のことをわかっていないのはむしろ「保守派」を自称する人達の方です。



もし「外交交渉の一切無い戦争」を想定するなら、それは相手国の国民を文字通り「全滅」させるところまで突き進みます。

どれほどの軍事力があろうとも、人々を「全滅」させることなど不可能です。必ずどこかで限界がきます。

そういう話をすると、「いや、近代の戦争はそんな甘い話じゃない。全面戦争、無制限戦争なのだ。相手が無条件降伏するまで戦うのだ」 というでしょうが、はっきり言います。

そんな実例は、ありません。



そもそも「降伏」という行為自体が「外交」上の行為です。


また、「無条件降伏」という言葉は、文字通りに解釈してはいけないのです。無条件降伏の代名詞となっているポツダム宣言にも、「吾等ノ条件ハ左ノ如シ」とはっきり書かれているのです。これは明確な外交交渉です。

もし戦争が外交交渉破綻後の行為だとすれば、戦争の終結が外交交渉によって行われるはずがありません。





 「戦争は、外交が破綻したのちの行為だ」

この考えは、

「戦争が始まったら、外交官は黙っていろ」

という考えに直結します。

そういう人達は、戦争を終らせないつもりでしょうか?

劣勢ならば「最後の一人まで」戦うことを要請し、優勢ならば「さらなる勝利」を要請し、常に常に常に軍人が実権を握りたがる。

それではいくら優勢であっても、いつか攻勢限界点を超えて戦争が破綻するでしょう。



「戦争は外交が破綻したのちの行為だ」

このような考えをもっている人こそ、戦争のリアルを知らない人です。




戦争を、なにか「想像もつかない凄いイベント」「よくわからないけど、ほんとうに凄いことなんだ!」というように語るのをやめましょう。

戦争は最高に暴力的な行為ですが、それは野放図な暴力ではなく、政治、つまり外交によって手綱を握られた暴力なのです。