【続 誰も語らない「サイバー戦争」の将来像】



(つづき)
(※フィクションです!)



 A二等兵は、入隊当初、体力には欠片ほども自信がなかった。はじめての体力測定では、3000mを走りきることすらできなかった。かといって、訓練を通じて自分に自信が持てたというわけでもなかった。卒業前の行軍訓練も、同期のB候補生に背負ってもらって「完歩」した。

基礎訓練の間、B候補生はことあるごとに僕をかばってくれた。僕が支給品の水筒を割ってしまったときも、「兵士の心構え」を暗唱できなかったときも(悪いけど全然興味なかったんだ)、僕の代わりに、あるいは僕と一緒に腕立て伏せをしてくれた。行軍のときもそうだったけれど、ひどい言葉で罵ってくる割には、彼はいつも笑っていた。



その理由は、いまでもよくわからない。

僕の方は、ほとんど何もしてあげられなかったと思う。

このまえ偶然見かけたとき、彼はレンジャーバッジをつけていた。所属部隊を尋ねたのだが、教えてもらえなかった。

 




 この部隊にきてからもいろいろな人と出会った。「サイバー小隊」といっても、天才ハッカーは僕一人。Excelのマクロ機能も使えない連中ばかりだ。プログラム経験があるのは、僕と小隊長だけだった。

同じ部屋に、C上等兵がいた。前にいた部隊では、いつも無線機を背負っていたらしい。重たい無線機からタブレット端末に「世代交代」できると聞いてサイバー小隊に志願したのだが、結局タブレット端末と無線機の両方を持たされることになった。ちなみに、タブレット端末は役に立たなかった。装甲車が吹き飛ばされたときに、画面が割れてしまったのだ。

C上等兵は余りにも先端技術に疎かったので、僕は毎晩来たるべき「サイバー戦争」について語った。しかし、彼はいつも休暇のことばかり考えていたようだったし、たいていは5分くらいで寝てしまっていた。



そんなC上等兵は、ほんの10分前、軍曹に昇進した。正確には、昇進「することになった」。僕たちの目の前に砲弾が落っこちてきて、とっさに僕の上に覆い被さったのだ。血まみれになったC上等兵は、応急手当を断って、こう言った。「いいから行けって、お前の仕事は、スピードが命なんだろ? 毎晩言ってたじゃないか」 



 周囲は砲弾の砂煙と燃料が燃えた煙で夕暮れのようになっている。

 GPSも、タブレットも、データリンクも、進むべき道を示してはくれない。


 砂埃の奥、銃声の響く方向へ、僕は駆けだしていった。


(つづく)