【クラウゼヴィッツ「戦争論」を読む その3(軍事力の本質的な限界)】


 普仏戦争でプロイセン軍はセダンに仏軍主力を包囲、ナポレオン3世を捕虜にしました。国家元首を捕虜にしたこの戦いは、軍事史史上類をみない大成功です。

 

しかし、ある方は、「セダンでナポレオン3世を捕虜にするべきではなかった」 といいます。「交渉相手の政府を失ったことで、戦争が終らなくなった」と。

 

 

クラウゼヴィッツは、「軍事的行動の目標は、敵の防御を完全に無力ならしめるにある」  と述べています(上巻29頁、33頁)。

 

軍事力を過剰に行使する余り、敵そのものを消し去ってしまっては、戦争そのものが成り立たなくなるのです。そのとき民衆が我が方の軍事力を恐れて従ってくれれば武力によって無理矢理新政権を樹立することも不可能ではないでしょうが、万が一民衆が蜂起したり治安が悪化したりすれば、戦争は泥沼化します。最近の例を挙げれば、イラク戦争での米軍が典型的です。逆に、皇居を爆撃対象から外した第二次大戦時の米国の判断は正しかったと言えます。


もし敵国の政権を完全に打倒することを目指すのであれば、それは軍事の理論の手に余ることです。必ず政治的な手段を用いなければなりません。戦争の限界は、「相手の防御をゼロにする」ところまでです。これを弁えないと、戦争は泥沼化する可能性があります。

 

 

参考文献:
クラウゼヴィッツ著 篠田英雄訳「戦争論」