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部屋のドアはいつも空いている。

だから、部屋の近くを通りかかる人の声も聞こえる。

 

私は何故か食事をしていない。

また、時計もない。

そのため、今が何時なのかも分からない。

ただ、食事の時間は分かる。

それは、部屋の近くを通る人の声が増える時間があるからだ。

きっと、私の病室の近くには、食堂があるのだろう。

 

私はこれまで、その部屋を見たことがない。

自分で移動できないし、部屋から出るときはベッドに横たわっている。

だから、見えるのは天井と看護師だけ。音だけで知っている食堂だ。

 

この食堂には、どうやらいつも院長が食事に来ているようだ。

男性の声で、話しぶりが明るい。

ナイスミドルな雰囲気を感じる。

その近くには、40代くらいの男性がいるようだ。

院長の言葉に相槌を打っている。

院長はどんな顔なのだろう。

たぶん、毛髪はグレイで、髪型も整っている。

白衣を綺麗に着こなしているのだろう。

 

そういえば、少し前に5~6人くらいの医師が私のベッドにやって来た。

そして、主治医に質問をしていた。

会話の雰囲気を聞いていると、主治医より格上の医師のようだ。

時間は短かった。

終わると、そのグループの中で一番偉そうな医師が、私に「頑張ってくださいね」と言って笑った。

 

 

ただ、その時の医師と、毎日食堂にやってくる医師は別人のようだ。

偉い医師が何人もいる病院なのだな。

この中の誰かが、私を治してくれるのだろうか。

 

未だに、ここがどこなのか、一切分からない。

日本語を話しているから、日本ではあるだろう。

それ以外の情報が、一切分からない。

 

 

 

そういえば、今日はいつもの手袋がないな。

指を動かせる。

 

そうだ、自分の鼻毛が気になっていた。

入院してから一度も鼻を触っていない。

鼻毛が伸びっぱなしになっていて、物凄い状況になっているのではないだろうか。

爪で抜こうとしたが、鼻には何故かチューブが刺さっていて、一部だけしか触れない。

 

 

それでも触っていると、思ったより遥かに長い鼻毛が生えているようだ。

一体いつからここに居たのだろう。

過去の記憶の消え方からしても、年単位で記憶を失っていたのではないだろうか。

 

 

 

また、なんのためなのか分からなかったが、私は数日に一度、ベッドから移動されることがある。

自分では移動できないので、看護師が二人係で小さな搬送ベッドに乗せ換えて移動する。

看護師からの説明は一切ない。

移動先で、服を脱がされ、腕に付いている点滴が濡れないよう、サランラップのようなものをしっかり巻かれて、温かいお湯をかけられる。

その時の私の姿勢は、ベッドに横たわっている状態とほぼ変わらない。

 

 

何日も続いてそれをされていると、ようやく意味が分かって来た。

これがお風呂なのだ。

全然リラックスなんてしない。

でも、身体の油は取れているのだろう。

問題は、そのお湯を掛けられている時、耳の穴に水が入ってしまうことだ。

 

ただ、文句を言う気持ちもない。自分のことなど、もうどうなっても構わない。

だから、水が入ってもそのまま放置していた。

 

でも、その放置が悪かった。

これまでは水が耳の穴に入っても、しばらくすれば蒸発していた。

だが、回数が多かったせいなのか、ある日から左耳の水が全然取れなくなった。

これは実際に体験した人にしか分からないだろう。

左耳だけ、フィルターを通したようにしか聞こえない。

一時の現象なら気にしないが、何日経ってもその嫌悪感が続くと、さすがに無視できない。

なんとか水を抜こうとして、強く首を振ろうとしても、ベッドに横たわっている状態ではなかなか上手くいかない。

また、失語症で言葉が分からないため、その状況をどうやって看護師に伝えるのかも分からない。

 

ある日、左耳を下に向ければ、水の影響が少なくなることに気付いた。

そのため、常に左耳を下に向けていた。

 

すると、毎朝回診に来る主治医が、私の姿勢について注意した。

「今、頭蓋骨の左側を外しているんですよ。だから、なるべく左側を下に向けないようにしてくださいね。脳に影響が出てしまいますよ」

頭蓋骨を外してる?

なんだ、それ。

私はとりあえず頷いたが、別に自分の命なんてどうでもいい。

無視した。突然死ぬんだったら、その方が断然いい。

 

 

  現在からの振り返り

良太です。

 

 時間軸の喪失

鼻毛がすごく長くて何年も経ったように思っていましたが、実際の時期としては倒れて1ヶ月半くらいたったころですね。

私は無意識に、適切に鼻毛を抜いていたんですね。

 

すごく長く感じたのは、自分の知能が大きく下がってしまって、地続きを感じなかったことなのかなぁと思います。

あとは、そんなに寝続ける経年なんて、物心ついてから一度もありませんから、そんな風に感じることは今考えると当たり前な気がします。

何もしてないと、長く感じるもんなんですね。

 

 病院の食堂

食堂は、実際に部屋を出たらそこが食堂でした。

その隣はナースステーションです。この時の私の病室は一人部屋でした。

簡単に言うと、目を離せない患者という感じでしょうね。

 

そこで、院長が食事をしていたというのは、あとから思えばかなり面白い勘違いですね。

その話は続きで出てきますので、楽しみにしてください。

 

 耳の異常

耳が聞こえにくくなった状態は、数か月続きました。

治って本当にほっとしてます。

 

 頭蓋骨の一部が外されている!

頭蓋骨は何故かそれほどショックではなかったですね。

もう、この時の私は完全に植物状態と変わらないと思っていたと思います。

 

この頭が凹んでいるのも、それが理由です。

 

かなり大きな範囲が外されていました。

これで治るんですから、現代医療ってすごいですね。

 

 

 

それでは、次回からも観に来てくださいね!