怪物の棲(す)む場所 | 渡部遼介オフィシャルブログ「Ryosuke’ Note」powered by アメブロ

怪物の棲(す)む場所

明日はカメラWS(ワークショップ)の初日。

カット割りやカチンコのタイミング等、説明しようと思っている。

ふだん現場にいるひとには当たり前のことだが、経験しなければ一生判らない。


20代のころ俳優座の養成所を出て初めて撮影現場に行ったときは、もうなんだか解らなかった。

じぶんでも試行錯誤のすえ、あちこちのWS(ワークショップ)に行って学んだが、なにしろ教えてる方も現場に行っているひとたちがまずいなかったので、その経験は得られない。


35mmのカタカタなる音に緊張し、一回NGを出すたびに数万円が飛んでいくといった、どうしようもない知識ばかりの頭でっかちが、一生懸命にやるしかない、といった状況でしかなかった。

新藤兼人監督の現場は、後から考えてみればスタッフがみな、新人でも軽くあしらわず、プロフェッショナルだった。

経験のない俳優にガッカリしたじぶんを見せつけたり、舌打ちの音をわざわざ聞かせる現場ではなかった。


その現場で、やるだけはやった。


当時の社長兼マネージャーは、ぼくに素晴らしい経験をさせてくれた。

いきなり履歴書を送りつけ、目がいい、というだけの理由で養成所上がりの男にたくさんの実績を積ませてくれた。


いま考えれば、非常に恵まれていた環境だった。

逆に考えれば、仮りに新人はゴリ押ししてでも現場を踏ませてくれないとキャリアが続かない。

ベテランのかれは、それを熟知していた。

そして、実現できる能力があった。


ぼくは履歴書を送っただけで、だれもがそんな人生を経て俳優になると思っていたが、じっさい新人が仕事を得ることは簡単ではない。

仕事を得るために歩き出せる俳優はわずかだが、その第一歩を踏み出せた勇気をもっているかれらでさえ、キャリアを踏むことは容易ではない。


カメラ前でどう振舞うか。


結局、映像俳優にはそれしかない。

その重要性を痛感した上で、もろもろの逆算がある。


それには現場での経験、そうでもなければ少なくとも模擬でもいいからやるしかない。


現場はけっして、怪物が棲(す)む場所ではないのだ。