柴崎友香著『千の扉』
築40年都営住宅4階の一室で、千歳は夫一俊と暮らし始めた。一俊の祖父勝男の部屋なのだが、彼が入院した
ため戻るまで孫夫婦が留守番代わりに住むことになったのだ。
千歳は勝男から人捜しを頼まれた。同じ団地に住んでいるはずの髙橋という友人、長い間会っていないが、好きだった女性の思い出の品を預けてあるそうだ。
この都営団地には三千戸の部屋があり、七千人近い人間が住んでいる。
たくさんの人の生活があり人生があり、時にそれが交差する。
そして長い時を経た団地内には起きた事件も色々あり、怪談や都市伝説も語り継がれる。
どこかの部屋に通じると言う噂のトンネルを一俊は昔探し回ったことがあると話し、千歳の知り合った中学生のメイはそのトンネルは未来へ行けるのだと言う。
千歳は髙橋さんを探しながら団地内を歩き回り人に話を聞き、勝男達が生きてきた、その土地に積み重なった時間をも知ろうとするのだった。
団地、というのは不思議な場所です。ほぼ同じ間取りが組み込まれた同サイズの箱の中に、たくさんの人々が様々なライフスタイルでおのおの暮らしている。
そこにはそれぞれ無数の物語があります。
最近団地を舞台にした小説やドラマがいくつも作られているのは、そういう、どこをどう切り取っても人の生活や物語が見えるからなのでしょうか。
まぁ、活気に溢れた時代とされている昭和回顧が流行っているのもあるのでしょうが。
一俊と千歳以外の人達の視点で語られる部分も多い小説です。時間も前後します。戦争で焼け野原の時代、若い勝男の恋、一俊の子供の時、一俊の同級生の家の事情、一俊の母圭子の娘時代…。
この小説の中にもたくさんの物語がつまっています。
千歳が一俊や勝男を知ろうと思ったら、そんなたくさんの物語の扉を開けなければいけないのだな、大変だ、と思いました。
だから人は誰かと共に生きていこうと思ったら、そこから2人で新しい物語を作り出していくしかないのかもしれません。
この小説、毎日ちょっとずつ読んでいたので、私もその団地に住んで中を歩き回っている気分になっていました。