はっきり言って、すごく感動しました。
他の人はどうか知りませんが、アルバムをレコーディングするときは、いつも死ぬ気です。
にも関わらず、残念ながら今まで一度も、もう死んでもいいと思えるような納得のいく作品を作れたことがありません。もちろん、いつだってベストは尽くしているのですが、良いものができたと満足していられるのは、長くても二週間。ひと月もすると、あのときああすればよかった、こういうやり方もあった、と反省点はいくらでも出てきます。でも、そうやって課題が残るから、次こそはもっと良くしたいという気持ちになって、続けられるのかもしれません。
しかしこのアルバムには、そういった次点的なものがまったく感じられませんでした。むしろ沸いてきたのは、そうか、ここまでやったか、という畏れの気持ちです。 まさか、打ち込みが積極的に使われているとは思いもしませんでした。これはきっと賛否別れるところで、パンクバンドのくせに打ち込みを使うなんて、とか、前の方が良かったと思う人は結構いそうな気がします。敢えてプログラミングやキーボード、シンセを多用した音作りを選んだのは、曲がそういった音像を求めていると判断したからでしょう。曲の持つ世界観を表現するためにサウンドを作るわけですから、それは単純で当然な決断です。でも、バンドとしてそれをやるのは、とても勇気の要ることだったと思います。自ら演奏して音を作ることこそバンドのバンドたる所以であるのに、それを打ち込みでやってしまったらバンドの存在意義が揺らぐからです。本当に信頼関係がなければできないことです。それでも彼らは、形へのこだわりよりも、詞・曲を作った峯田氏の頭の中にあるものをどうやって具現化するかということに、全員で真剣に取り組んだのではないかと思います。そうやって突き詰めていった答えが、たまたま生楽器ではなかったということです。
銀杏BOYZらしくないとか、パンクじゃないと否定するのは簡単ですが、築き上げてきたものを自ら壊すことさえ厭わず、正しいと思ったことを追求していく彼らの真摯な姿勢こそパンクであり、とても美しいと俺は感じました。
ボーカルの峯田氏以外のメンバー全員がリリースを前にしてやめてしまったのも、九年間の長きにわたり全力で取り組み続けた結果、三人ともそれこそあしたのジョーのように真っ白になってしまったのではないかと思います。本当に良いバンドだったんだろうなあ。そして、一人残った峯田氏の精神力たるや怪物級だなと。