ネタバレあります!!
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『恋人の横顔』








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リオン「あなたのことが狂おしいくらいに・・・好きなんだ」


「・・・・・っ」


(リオンさんが、私のことを・・・?)


リオン「あなたの言った通りだった」



リオンさんがふわりと頬笑む。

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リオン「誰かを愛しいと思うと、その人以外何も見えないんだ。胸が痛くて・・・切なくて」


「リオンさん・・・」


リオン「このバーの、あのカウンターで。あなたと会う時間が待ち遠しかった」


(私も同じ・・・)


リオン「でも、マッドハッターとしてもあなたと触れ合ううちに、どうしてあんなことしちゃったんだろうって後悔した」


「あんなことって?」

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リオン「自分を偽ってあなたと出会ったこと。初めからちゃんと、正直に・・・・僕がマッドハッターだよって言えば良かったって」


「それは・・・きっと・・・すごく驚いたでしょうね」



“もしも”を想像をして、素直な感想を口にするとリオンさんはクスリと笑った。



リオン「そうだよね。僕だと分かってたら、バーで会う約束なんてしないよね」


「そんなこと・・・・ないと思います」

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リオン「・・・・・・本当に?」



リオンさんが切ない瞳で私を見つめた。

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リオン「僕は・・・本当の僕としてあなたのことが好きだ」


「・・・・っ」



二度目の告白に心臓がばくばくと音を立てる。



(忘れるつもりで、ここに来たのに・・・)


リオン「恋をすると、自分で自分の心も・・・身体も・・・コントロールできなくなるんだね」


「・・・・っ」


(ああ・・・その通りだ)




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私はきゅっと目をつむり、そしてゆっくり開いてリオンさんを見つめた。



「はい・・・そう思います」



小さな声で呟く。



リオン「○○さん・・・?」



リオンさんが私の様子を不思議そうに見つめる。

その瞬間、涙が一筋私の頬を伝った。


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リオン「え・・・」




「忘れるつもりでここに来たのに、全然あなたが忘れられなかった・・・・。ううん・・・本当は・・・・初めから忘れるつもりなんてなかったんです。忘れるつもりなら、ここじゃない別の場所に行ってた」


リオン「・・・・・」



リオンさんが探るような瞳で私の顔を覗き込む。

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リオン「・・・・どういうこと?」


「分かりませんか?」

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リオン「・・・・自信はないけど・・・あなたも僕を・・・好きかもしれない?」



控え目にそう尋ねるリオンさんに、愛しさが込み上げる。



「はいっ・・・・。そういう、ことです」



笑顔で答えると、リオンさんは顔をくしゃりと歪め、次の瞬間手を伸ばして私の頭を肩口に抱き寄せた。



「・・・っ!」



リオンさんの体から、甘い香りが立ち上る。

そして私の耳元に唇を寄せ、囁く。

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リオン「ありがとう」

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リオン「すごく・・・嬉しい」


(リオンさん・・・・)



心が温かい気持ちで満たされていく。

私はそっとリオンさんの背中に手を回した。




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リオンさんと気持ちが通じた数日後。

今日は闇オークションの開催日だ。

スポットライトがマッドハッターさんに 燦々とそそがれる。



マッドハッター「紳士淑女の皆さま方、闇オークション“アリスのお茶会”へようこそ!今宵も必ずや皆さまに楽しい時間を提供する素敵な品々ばかりご用意させて頂きました!」


(マッドハッターさん、何だかいつもよりテンション高いなぁ)


マッドハッター「この“アリスのお茶会”のモットーは皆さまご存知『金さえあれば何でも買える』でございますが・・・」


(ん・・・?)


マッドハッター「世の中には金では買えないモノがあることを私は近頃身を持って体験いたしました!」



ザワザワ



マッドハッターさんの個人的な報告に会場がざわめく。



桜汰「あの人なに言ってんの?」


馬場「春だからねぇ・・・」


(うわぁ・・・・)



居たたまれず、私は商品の搬送を黙々と手伝うことにした。




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マッドハッターさんのハイテンションな司会で、闇オークションが進行していく。

私は最後の商品を舞台袖に運んだ。



マッドハッター「さて、次は今宵の目玉!」



マッドハッターさんが商品にかかっている黒い布をふわり取り去ると巨大な宝石が現れる。

客席から感嘆の声があがる。



客A「まあ、ガーネットかしら」


客B「あんな大きいもの、初めて見たな」


マッドハッター「商品名は『恋人の横顔』一見ガーネットのように見えますが・・・・」



マッドハッターさんが軽く手を上げ合図を送ると、場内の照明が角度を変えた。

すると・・・



客A「あら、どういうことかしら?」


客B「色が変わった。あれはエメラルドじゃないか」


マッドハッター「驚き頂き光栄です。こちらは1830年ロシアで発見されたアレキサンドライト。光の種類によってその色合いが変わって見える特殊な鉱石で、これだけの大きさの原石は世界に二つとございません。しかし注目すべきはこの質量ではなく商品名でございます」


(え?そんな説明だったっけ?)



慌てて出品リストの説明に目を滑らせていると、マッドハッターさんが私の腰に手を伸ばし引き寄せた。



「ええっ!?」



間近に見える作りものの青い目の向こうにリオンさんの瞳が見え隠れして私の体温は急上昇する。



マッドハッター「見る場所によって見え方が異なる様は、まさに恋こがれる人の横顔そのもの・・・」



妖艶に微笑むとマッドハッターさんはグローブをはめた手で私の頬をするりとなぞる。



(そ、そんな風に触れられたら・・・)


「本当にその通りです!」


マッドハッター「え?」



頬に触れるマッドハッターさんの手に、自分の手を重ね、私は芝居がかった口調で告げた。



「恋をすると、自分が自分でなくなるよう、これまでの自分から、新しい自分に生まれ変わるのですね」


マッドハッター「・・・・っ」



にっこり微笑むと、化粧の上からでもマッドハッターさんの頬が赤く染まっていることが分かる。



(可愛い・・・)




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私の腰に手をまわしていた手をさっと離し、商品の説明に戻るマッドハッターさん。



マッドハッター「さあ、この『恋人の横顔』最低入札価格は――」


「・・・・」


(ちょっと驚いたけど、司会をしているマッドハッターさんはやっぱり輝いているなあ・・・)



頬が緩みそうになるのをおさえ、私も闇オークションの進行へ戻った。




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何とか無事に闇オークションを終え、舞台袖へと戻ると、スペードのみなさんが私のもとに近寄って来た。



「皆さん、どうなさいました?」



すると木崎さんがにこにこと笑みを浮かべ、私を見る。



桜汰「へぇ~。知らなかった。まさかアンタとマッドハッターがそんな関係だったなんて」


「えっ」


「まあ若い男女があんな閉鎖空間でずっと一緒に過ごしてたらなあ・・・・」


蒼龍「フッ、お前も物好きだな」


馬場「ふふ、マッドハッターって寝るときもあのメイクなの?」

落としてます(笑)



矢継早にはやしたてられ、頬に血が集まるのを感じる。



英介「あいつが生身の人間に興味を持つとは驚きだな。お前、どんな魔法をかけた?」


「・・・・・・」



どう答えていいか分からず沈黙していると、舞台からマッドハッターさんがゆったりとした動きで歩いてきた。



マッドハッター「おや、何の騒ぎでしょう?」


馬場「あ、彼氏登場♪」


マッドハッター「はい?」


桜汰「とぼけないでよ。舞台上でイチャイチャしてたじゃない」


マッドハッター「・・・・・・


貴志「なあ、どっちから告白したんだ?」


蒼龍「まさかその顔で告白したわけじゃないだろうな?」


マッドハッター「・・・・・・」



私と同じように質問攻めになるマッドハッターさん。

以前の私なら何も心配しなかったが、本当は繊細で恥ずかしがり屋なリオンさんの性格を知った後では不安になる。



(大丈夫かな、リオンさん・・・)




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マッドハッター「えっと・・・・



グローブをはめた両手の指と指を合わせてもじもじし出すマッドハッターさん。



英介「フッ、あまりコイツを困らせるな」

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マッドハッター「・・・英介さん!」



予想外の助け船にマッドハッターさんが顔を輝かせたのも束の間。



英介「俺の質問にだけ答えればいい。この女のどこに惚れた?」

喜んだのも束の間(笑) やっぱ英介だわ(*≧m≦*)


マッドハッター「・・・・それは・・・・」


スペードメンバー「それは?」


(それは・・・?)



いけないと思いつつ、マッドハッターさんの答えたが気になったのも事実だった。



マッドハッター「私と○○さんだけの秘密です!」



満面の笑顔でそう答えると、マッドハッターさんは私の手をさっと掴む。



マッドハッター「さぁ、部屋へもどりましょう」


「は、はい」



マッドハッターさんに引きずられるように、私は闇オークションの会場を後にした。

残されたスペードメンバーが呆然と私たちを見送る。




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マッドハッター「はぁ・・・・」



ティールームに辿り着くと、マッドハッターさんはテーブルに両手を突き肩で軽く息をした。



(無理してたんだな・・・)


マッドハッター「まったく、あの人達には困ったものですね」



やれやれ、と肩をすくめたマッドハッターさん。



マッドハッター「少し汗をかいてしまいましたので、シャワーを浴びて来ますね」


「はい、その間にお夕飯の準備をしておきます。何かリクエストありますか?」


マッドハッター「・・・・」



マッドハッターさんは青い瞳で私をじっと見つめる。



「・・・・?」



ふらりと私の方に歩み寄ると、グローブをはめた手で私の顎を軽く持ち上げる。

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マッドハッター「あなたの全てを愛しています」


「・・・・っ」



突然の告白に言葉を失う私を見て、マッドハッターさんは優しく微笑む。



マッドハッター「それが答え。さて、と。ではシャワーを浴びて来ますので、また後で」



するりと頬をなぞりながら離れるマッドハッターさんの指の感触が、いつまでも肌に残る。



(私も、リオンさんもマッドハッターさんも・・・・・あの人の全てが大好き)



シャワールームへと消える恋人の背中を見送りながら、見る度に色を変える彼の横顔から目が離せない予感がした。








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―― Normal End ――