小島良太『キーストン』

キーストン

昨夜放映されたキーストン物語で涙を流された方も多いかと思います。
競走馬の死に直面するのはとても辛いことで、一番出くわしたくない場面です。僕がまだ調教厩務員だったころ、ゴール板を通過したところで担当馬のコガネスキーが骨折し、転倒しました。僕はスタンドから馬場まで走って近づいたときにはすでに、脚が皮膚でわずかにぶら下がっている状態でした。馬運車に乗せ、診療所に向かう間、僕の胸に顔をうずめたまま暴れもせず、ただじっとしていました。僕は彼の死を覚悟しましたが、きっと彼自身もこのとき死を覚悟していたのかな・・・と思います。診療所に到着し、獣医さんに「外で待ってて下さい」と促され、次に呼ばれたときにはすでに安楽死によって永遠の眠りについていました。競馬場からトレセンに一緒に帰ったのは封筒に入ったタテガミと蹄鉄だけ。朝、元気よく一緒に競馬場に行ったのに。そしてそれから数ヶ月後、自分の担当馬ではなかったのですが、サンデーサイレンスの初年度産駒で芦毛のサクララフィーネという馬が癌に侵されました。毎日担当の厩務員さんが入院馬房に行き、食事を食べさせに行っていましたが病状は日に日に悪化していきました。すでに自力で立ち上がれないほど悪化していたある日、担当の厩務員さんはいつもより早く入院馬房に向かいました。虫の知らせだったのかな、ラフィーネは最後の力を振り絞って厩務員さんの膝の上に顔を乗せ、そのまま息を引き取りました。僕のコガネスキーもサクララフィーネも大した成績を残したわけでもなく、無名のままこの世を去りました。でもその日の出来事は鮮明に覚えています。正直、キーストンのように有名な馬じゃなくて良かったな、って思います。そんな痛くて辛い場面が映像として残っているのは身近にいた立場としては…。死にまつわることは感動じゃないし元気なまま競走馬を全うして欲しいというのが一番の願いですから。僕が調教助手になってから、自分が携わった馬はすでに４００頭近くになります。その中で、セントラルカフェ、メイショウダイアナ、クサタロウ、ライブインザムーン、プリンシペデルソルが命を落とし、牧場へ放牧に行ってる中でもモートンカフェ、メガトンカフェが亡くなりました。悲しいことが多いけど、それでも競馬はこれからも続きます。

「まずは無事に」

元気でいれば次があります。「必死」とか「死に物狂い」とか死がつく言葉は嫌いです。そんな言葉使わなくても馬たちは一戦一戦を全力で戦っているのですから。

菊花賞を前に暗い話になっちゃったかな。
明るい話し、しましょうね。
アロマカフェは明日の早朝に京都競馬場に向かいます。今日もいつも通り、調教してご飯食べて昼寝しています。

明日の輸送に備えて体力温存です。