「グゥなかないでよ」


ミナが小さな手で


僕の頭を優しく撫でてくれる。


「ぼくがいなくなってもね、ジミナがいるよ」


「ミナはいなくなるんじゃないでしょ…」


「う~ん、でもこうしておはなしは、もうできないからね~」


悲しいことを


当たり前のように言うミナ。


これじゃまるで僕の方が子供で駄々っ子だ。


ぐすっ…


いつまで経っても涙が止まらない僕を


困った顔で見ていたミナが


急に僕の顔に顔を近付けたと思ったら


ペロッ


目の下辺りを舐められた。


「…えっ?」


「しょっぱいね」


「…舐めた?」


「うん。めのしたがあかくなってて、いたそうだったから」


傷を癒そうとする


ネコみたいだ。


「はんたいもね」


舌を出したミナが顔を近付けてきて


もう片方の目の下も


舐められる。


舌を出したミナの顔が


一瞬だけジミナと重なって


心臓が止まるかと思うくらい驚いて


涙は止まった。


「とまったね」


涙で濡れていた顔を


小さな手で拭ってくれる。


本当にどっちが子供なんだ。


なんだか可笑しくなってきて


思わず笑ってしまう。


「やっとわらってくれた」


「ごめんね…ミナ。僕の面倒みてくれて、ありがとう」


キョトンとした顔で


「?…そんなの、あたりまえだよ?」


「当たり前なの?」


「グゥがだめなときはぼくがたすけるの」


いつか聞いたジミナと同じ言葉。


「ミナは僕が助ける。そうだね、当たり前だ」


そうだ。


それは僕とジミナの


当たり前のことだった。


「あっでもねっ、グゥずるいよ?」


「何がズルいって?」


「ぼく、こどものグゥとあったことないよ?ジミナもないでしょ?」


「それは…そうだけど…」


5才ではなかったけど


15才でまだまだ子供だった。


「ずるいっずるいよっ。こどものグゥ、ぜったいかわいいよっ。みたいよ~」


「可愛くないよ。僕の子供の頃は人見知りがひどくて、全然笑わない子だったから」


「そうなの?」


「そうなの」


「でもきっとわらわなくても、かわいいよ」


無表情な子供が?


「グゥのおっきなめはね、いろんなきもちをつたえようとして、じぃ~っとみてるから。ぼくがおともだちだったら、たくさんはなしかけて、おはなししてくれるまではなれないのに」


それはまるで


昔の僕とジミナのことだ。


初めはお互いに人見知り。


おまけに思春期だった僕は


面倒くさい奴だった。


ジミナが好きで


わがまま言って嫉妬して


ぐちゃぐちゃにしてやりたくなって


突き放したりして。


ジミナは僕がどんなにひどい態度でも


諦めずに話しかけてくれた。


僕の苦くて甘い


懐かしい思い出。


「僕は幸せだなぁ…」


「そうだよっ!ぼくもジミナもグゥがだいすきで、すきがたくさんふえたよっ」


「そうだね。ありがとうミナ」


好きがたくさん。


今のミナと


ジミナは昔から


好きという気持ちを


真っ直ぐに伝えてくれていたから


僕は愛されてることを


ちゃんと知っているし


疑ったこともない。


それはすごく幸せなことなんだ。


「はぁ~、こんなに泣いちゃって、カッコ悪いよね」


「ないてるグゥね、すごくかわいいのっ。なみだがキラキラっ。グゥがないてるときはぼくにまかせてっ」


こんなに小さな体なのに


まるでヒョンみたい。


すごく頼もしい。


そしてこんなにかわいい顔で


ジミナと同じようなこと言うんだからなぁ。


僕にとっては魅力の塊だ、ミナは。


「もう泣かないよ」


「ないてもいいよ?」


「泣かないよ。それに大人はあんまり泣かないんだよ」


「ふ~ん?ほんと?」


「たまに…泣くかもしれないけど…」


よく考えたら


僕もジミナも泣き虫だ。


「ポッポしよっか?」


「ミナは…泣いてる人にするの?」


「かぞくと、だいすきなひとにだよ。オンマがそういってたから」


「じゃあ、僕もミナにポッポしてあげるよ」


ミナの頬っぺに


チュッと


ポッポしたら


ミナは顔が真っ赤になった。


「…うわぁっ…はずかしい…」


「だから他の人にはしないでね」


「しないよ…グゥだけだもん」


「あと二人の時だけね」


「うん…」


やっとわかってくれたようで一安心。


「はぁ…、なんだかお腹すいたな…」


「すいたな~?」


「作りに行くか」


「いくか~?」


「真似っこなの?」


「まねっこ、ふふふっ」


いつもは僕が


ジミナの真似っこだって


言われていたから


なんだか可笑しい。


「真似っこミナ、行くか」


「いくよ~。なにつくる?」


「何があるかな?ラーメン?」


「ラーメン?」


「ミナ、ラーメン好き?」


「うん。キムチもすき」


「キムチ?」


「オンマのキムチ」


お母さんは料理上手だって


ジミナが言っていた。


そのキムチを使った料理が大好きで


キムチチャーハンが一番好き。


「キムチチャーハン?」


「どうしてしってるの!?」


「ジミナも言ってたよ」


「だってね、ほんとにおいしいんだよ?」


「僕も食べてみたいなぁ」


「ぼくも…」


ミナ…


「お母さんに会いたい?」


「うん…」


「ミナおいで」


さみしそうなミナを抱き上げて


「さみしい時はどうする?」


「グゥにだっこしてもらう…」


「正解」


何でもしてあげたいけど


僕はお母さんにはなれない。


「ミナも泣いたら僕が舐めてあげるよ」


「なかないもん…」


べ~っと舌を出して強がるミナ。


たとえ結婚してなくても


僕は家族なんだよミナ。


強がりで隠した脆さも


全部僕が守る。


そしてミナもジミナも


いつでも安心出来て頼れる存在に


僕はなりたいんだ。