水底の月 -8ページ目

水底の月

恋の時は30年になりました 

最後の夜をと、予約していたお店

 

予定通りの時間を、予定通り二人で

電話だとなんとなく途絶えてしまいがちな会話も続く

 

「もう明日の今ごろはご自宅にいるでしょ。なんだかあっという間なんだけど」

 

「うん、sanaはまだ・・・帰っている途中か」

 

「ええ、誰かさんみたいに、コンサートがあるからって私を残して朝帰るなんて言わずに、ちゃんと最後まで勉強して帰りますから、遅くなります」

 

「ふふふふ・・」

 

 

 

ごまかすけれど、じんわり滲みはじめる寂しさ

先を考えてしまう私と、今を楽しむ雅治と

ここはおそらく、最後まで埋まらない

 

 

「Sana・・・」

 

「はい?」

 

 

 

「・・・Aから来た写真、見た?」

 

「ええ、さっきのでしょう。見ましたよ。A先生、2回撮ったのをちゃんと両方送ってくれてましたね、いい写真」

 

 

「うん・・・あれ・・・」

 

雅治は、少し口ごもる

 

 

 

最後に運ばれてきた杏仁豆腐が、空いたグラスの横で涼やかに揺れている

 

それをレンゲですくい口に入れ、顔を上げた

 

「これ美味しい・・・よく食べる杏仁豆腐と少し違いますよ、美味しい!」

 

「・・・あ?、うん、美味しい、いいね・・・」

 

 

 

だけど、雅治の雰囲気が少し変わったのに気づいた。

 

 

 

「・・・どうしました?写真が何か」

 

 

「あれ見て、どう思った?」

 

「どうって?」

 

「・・・・アイツと、体の距離が近すぎない?」

 

「え?」

 

「僕よりもAに寄ってるように見えるよ。胸がヤツに当ってる。もしかして・・・寄せに行った?」

 

 

「・・・あのね、真正面に向いたら体はまっすぐそのまま写るでしょ。それじゃ太って見えるから身体を少し斜めに角度をつけた、たまたま向いた方向にA先生がいた、それだけです」

 

「でもほら、絶対胸が当たってる。・・・アイツもそれに気が付いたと思う、だってほら1枚目はそのままだけど、2枚目は手を上に伸ばしてる。胸が手に当たったから外したんだろう」

 

「当たってませんって。可愛くて若いお嬢さんならともかく、アラフィフおばちゃんの胸が少々当たったところで何がどうということもないわ。当たったところで、A先生だって気にもしないでしょ」

 

「気にもしない?そんなことはない。当たれば、当てに来れば当然意識するよ。もしかしてわざと?」

 

「当てに?なわけないでしょ。何を言ってるの」

 

 

「アイツも男だ」

 

 

「男・・・あのね、他人が知らない私を十二分に知ってる人が、何?・・・もう」

 

 

 

 

 

 

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