昔の顔 | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

立ち去る後ろ姿も

私を見つめながらの「じゃ・・・また」も

通話が切れるガチャリ音も

 

嫌い

 

だから見ないようにするし

いつも最後は、受話器から耳を離す

 

 

 

・・・カチャ

 

そっと閉められた、ドアの音

思わず息をついた

 

部屋を出る姿を見たら引き止めたくなる

きっと思わずのそういう目を雅治に向けてしまう

 

だから見ない

私は随分我慢ができなくなった。向かい合えば弱く、抑制が効きにくい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもの、学会の朝を迎えた

歩きながら、そしらぬふりで尋ねる

 

 

「ねぇ?今朝は何時に出ていきました?」

 

「・・・えっと・・・4時くらいだったかな」

 

「少しは眠れた?寝不足でしょう」

 

「少しね。だから今夜は・・あんまり頑張れないかもしれないな、誰かさんの要求が強すぎる」

 

 

「もう。それにしても昨夜はあんなに・・・どうしたの、いつもは寝てる時間だし、随分激しく・・」

 

「だけど昨夜のはまだ一晩中というほどではない。誰かさんが一晩中ずっとって言うから、その約束は果たさないとね」

 

「・・・まあ」

 

 

朝8時過ぎ

学会場に行く道すがら、の話じゃない

 

 

 

「あのね」

 

「うん?」

 

「A先生から連絡が来てるの。こっちに出てきてるのか?って」

 

すっ、と表情がかわる

 

「ん?それで、何て答えた」

 

「それを、聞こうと思って」

 

 

「・・・sanaへの連絡は、後での食事の誘い?」

 

「いえ、まだそこまでの話じゃなくて」

 

「じゃ今日は約束がある、と言えばいい」

 

「3人で食事、というのは?」

 

「無いね」

 

 

「・・・あら?ヤキモチ?A先生とは何だかんだでそういうをタイミング逃してばかりで。食事も嫌ってこと?幼なじみでしょう」

 

「そう、嫌。幼なじみはここに関係ないし、アイツとsanaとのタイミングなんて合わないままで別に構わない」

 

「・・・あのね、えっと、A先生も私の恩師になるんですけど?久しぶりに会う・・・」

 

「嫌だよ。久しぶりの話は充分会場でできる。そんなことに時間を使いたくない。それとも僕よりAとの時間を優先?」

 

「・・・あらまあ」

 

嫌、と瞬間的に思う時、雅治はしゃべる言葉が早口になる

 

 

雅治は、演じるようにヤキモチを言うようになった

こそばゆくて、顔を背けて少し笑ってしまう

 

 

 

 

 

会場に着けば

 

私達は、距離をあけ

ふたりだけのいつもとは違う昔の顔をして、違う方向に歩き出す

 

 

お久しぶりです、という「先生」と「教え子」の顔をして

 

 

 

 

 

 

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