編入学 | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

「どうだった、試験の手ごたえは」

 

「うん、落ちることは無いと思う」

 

「・・・そうか」

 

 

2時間の論述試験、問題数は20問近くあった

 

とりあえず全部埋めた・・・という不安定さではなく、これで落ちてたら受かってる人はいない、という手応えにホッとしつつ、「試験が済んだら声が聞きたい」に繋がった電話に声を発した

 

 

「そうか、よかった。結果はいつわかるの」

 

「・・・うん、2週間くらいかな」

 

「その後は?」

 

「朝から晩までの講義が4回。最終試験は心理学講義を教授陣の前で実際に行う、プレゼンみたいな形らしいの。それは9月」

 

「へぇー・・・大変だ」

 

 

 

 

この試験準備と同時進行で


私は某大学への編入学準備をしていて

 

 

雅治が入院、手術となって

とりあえず、今は術前とかわらぬ時を過ごせているけれど

 

ずっと今のままでいられる・・・は

考えもしていなかった方向にひっくり返ることを知った

 

今後

それは、雅治かも知れないし、私の場合もあるかもしれないけど

 

 

 

雅治は笑って否定するけれど

私にとって雅治は昔から、今もずっと眩しいままで

 

雅治は私の持ちえないものを着実に、正当に積み重ね、今を得ている

それは、別の分野でどんなに違うスキルを身につけても、とどかなくて、掴めなくて、今のような関係であったとしてもずっと憧れのままで

 

今の私には、学術論文のテーマを考えつく発想も書く術も、実験をまとめあげる統計的素養もない

 

 

卒業して、数年経って

 

「じゃあ、sanaは、今何をがんばっているの?」

 

顔をあげられなかったその問い

色々ありながら、でも私もいつかはと思った


大学病院ならば論文執筆も学会発表も業務になるけれど、民間病院ではそうはいかない。


環境のせいにするわけではないけど

今まで出来ずに来ていて、悔いが残ってる

 

 

ただ、昨年

もう今のような時はそんなに長くないことを知った

 

雅治が、母校の大学教員でいるうちに

今よりももう一歩、学術的な立ち位置で近くに寄りたい

雅治の今に近づける、学位が欲しい

 

それは「憧れ」だけであってはいけなくて

ただ単位を重ねて、でもなく、きちんと学び結果として得たい

 

 

モヤモヤと、遠くにいる雅治のことを考え上がり下がりするちっぽけさでは「雅治の好きなsana」ではいられない

 

 

見守っているよ

 

試験前に送られてきたあの写真は、私にそう舵を切らせた

 

 

 

他の試験は、毎回「受ける」ことを言ってきたけど

なんだか、これは恥ずかしくて

合格したら言おうって、決めた

 

 

 

編入学の合格発表が届いたのは

それからひと月経った頃で

 

私の誕生日を、少し過ぎた頃だった

 

 

 

 

 

 

 

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