手のひらに響いた知らせ
先生からの返信だと気づき、思わず周りを見まわした。
来るはずのない人からのメール
どうしていつから私はメールを知っているのか、そのきっかけさえ忘れてしまっているほどに、先生から音が返ってくることはなかった。
メールのラリーがあったことは、無い。
なんで?
開くのをためらった。
あの頃の「僕も好きだ」は私の中に目眩がするような喜びを与えたものではあった。片手にも足らないほどの逢瀬、告げられた言葉、それらは私の中にひとつの芯のようなものを作らせたものではあったけれど
でも、先生は、ホントはそうじゃない
きっと、その瞬間のことだから
だから、ホント、に気づかないように上澄みだけを見ようとした
奥を覗けば、気づいてしまいそうだから
好きだと思う事に、先生だ既婚だ距離だ年齢差だと色んなものが乗っかる
二人称になり得ない恋は私が始めたもので、
だけど、その恋は私を随分と切り刻みもした
私がのめり込むほどには思われてはいない
先生の放つ、音のない時間は私にそう思わせていた
不安だと、告げることすら出来ない人だと
だから、結婚を決めた時も
恋人に別れを告げるような離れ方は出来ず
あっさりとバッサリいった他のヒトたちへの振る舞いとは真逆で
だって
別れ話なんて恋人のような立ち振る舞い、それは思い上がりだと思ったから。
結婚する、その報告すら
私は知っていた番号でもメールでもなく、あえて先生の仕事場に電話した。
「先生と生徒」を通すしかなくて、精一杯朗らかに振る舞い、同じ様に朗らかな「おめでとう」を引き出して、電話を切った
そして、その電話で伝えた後、
やっぱり、ほんの少し待った
だけど
改めてかけることも、かかってくることもないまま
メールのやりとりも無いまま
私はパートナーと結婚した
思っていたとおり、やっぱりね、と。
先生の私への気持ちなど、無いものだと
そうして、フェードアウトさせた
はずだった
手の中にあるメール
おそらくは初めてに近い先生からの返信
5年、という時は懐かしさを増長させていたけれど
なんで?
しまった、どうしてメールなんかしたのか
まさか、返ってくることはないはずなのに
チクリと痛い、これを読むのは・・・怖い
1.5人称だった昔の恋の記憶が疼いた
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