変わっていくところと変わらないところ  | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

「もういい」

 

顔を見合わせ笑った。もういい、そっか、そうか。

 

 

以前は言ってた旦那さんへの不満めいた話、今日は聞かなかった。

40代って、30代より生きやすくなったと思わない?理恵の言葉に頷く。

 

 

結婚して夫婦になる。ふわふわした思いはゆっくり現実になる。

 

日常のズレにいちいち目くじらを立て自分の正当性を主張したりして、どうしたってぶつかる。そのうち、家庭のありかた、子供は何人、親との関わり方、そんなことを二人ですり合わせ考えていくわけだけど。

 

結婚して10年越えると、だんだんその辺の塩梅がつかめてくる。なんとなくこのあたり、がわかってきて、腹を立てても仕方がないこと、の線引きが出来るようになってくる。

 

 それが日常で。

 

 

 

「坂本さんって、いくつ年上だったっけ?」

 

 

「7歳。もう50もとっくに越えたいいオッサンよ。sanaは?」

 

 

「言うわよぉ。7歳なんて離れたうちに入らない、そんなの同級生てへぺろ

 

「出た爆  笑久しぶりに聞いたわ。事務局長といくつ違ったっけ?Oさんとは?」

 

「事務局長とは21。恋愛対象の幅広すぎよ全く・・・今66か。Oさんも60は越えてる」

 

「60越え!そっか、それはもう無い、おじいちゃんだそりゃ」

 

「そうよ、Oさんはもう孫がいるからホントにおじいちゃんよ」

 

「うーわ、マジか!」

 

 

 

 理恵のすっとんきょうな声に、心の中で苦笑いした。

 

 

 

 

 

私はあの頃とは変わってしまった、だから変われない坂本さんとはもう続けられない・・・と理恵は言った。

 

理恵の話を、私の今と照らし合わせながら聞く私がいた。

 

今もずっと好きでいられる理由。

変わっていくところと変わらないところが混在しているからなのかなと。

 

 

 

雅治は怖い指導教官だった。眉をひそめ「ん?」という表情を浮かべられた学生時代・・・それで好きになるあたりが不思議だけど。

 

「努力しない者を視野に入れたくない」

言いはしないけど行動がそう言っていた(ように見えた)。そんな他人への視線以上に自分の行動を律する。その佇まいは雪原に立つ虎のように美しかった。

 

そんなことはない、1を聞いて10を知るタイプではないし僕を美化しすぎだと雅治は笑うけど。

 

同じような歩き方が出来なければ飽きられてしまう。恋愛の温度差が別れの理由になるよりも、そこが原因で嫌われるほうが怖い。

先生を好きで居続けることは自分への挑戦でもあった。

同じ様に確実な振舞いが出来ることが歩き方の原点となった。自分に甘くてすぐ負けてしまう、そんな私を遠くの雅治の存在が戒める。

 

そういうポジションが私には必要で、そう居させてくれる状況にずっと甘えてここまで来た。

カッコつけててよ、私の前では。そんな無言のプレッシャーをきっと与えていた・・・とは思うけど。

 

 

「sanaちゃん、よく頑張った」

初めて褒めてもらえたのは謝恩会、でもそれから、ちょっとずつ褒めてもらえるようになっていったっけ。

 

そして今は。26年前とは全く違う雅治の一面を、傍らで見ている。

言葉なくそのまま、ただ抱きあう幸せを知ってる。

雅治はもう、ただ在ればいい存在。

 

 

 

思わずほくそ笑む

 

60越え・・・無くもないてへぺろ

 

大きな声では言わないけど、結局年齢は関係ない、今も。

 

 

 

 

 

 

 

 


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