なんじゃコイツ | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

「今度、事務局長が変わるから。法人内の別のところから異動してくる」

 

「ふーん・・・そうですか」

 

「仕事改革とかで向こうの施設をガラッと変えたひとだから。収益も職員の定着率も上げたとかでこっちにね」

 

「へー・・・」

 

 

と言われても。

 

 

「そんなに関わることないでしょ。今の局長とだってそんなにしゃべったことないですし」

 

 

「まあねー。だといいんだけど」

 

 

仕事中ののんびりお昼寝、フラフラ外出が大好きな上司は、苦虫を噛み潰したような顔で言った。

 

 

 

現場と事務方、ヒラ社員は関わることがない。事務方の業務に興味も無いし。

それで、イラッとするやる気のない上司の何が変わるとも思えない。私には関係ない話。

 

 

 

それがそうもいかないぞと悟ったのが、その日の夕方だった。

 

 

 

「失礼、入るよ」

 

 

今でいうグレイヘア。

風貌で行くと、その後郵政改革等々で世間を席巻する、某国会議員に似た感じ。

口元に笑みはにじんでいたものの目が笑ってない、何か探りに来たみたいだな。

私の第一印象はそんな感じだった。 

 

 

で、誰?

 

 

「お久しぶりですが、お元気ですか」

 

「ええ、相変わらずで。この度はおめでとうございます。いつからこちらのほうへ?」

 

「もう動き始めてますよ色々と。整っていないものが多すぎるのでね。書類も人も」

 

「・・・そうでしたか」

 

上司の声に、あまり聞いたことがない若干の緊張が走った。

 

 

 

「この規模でふたり態勢ですか、なるほど。僕が以前いた時に比べるとよほど忙しいと見えますね」

 

「・・・いえいえ、休みも必要ですしね。交代がいるでしょう」

 

「そのへんはおいおい、統計から判断するということで。仕事は色々とありますから」

 

 

ん?

 

 

 

「ほう・・・もうひとりは女か。女でその仕事、もう少し普通の仕事もあろうのに」

目に探るような笑みをうかべ、振り向きざまにその人はとんでもない嫌味を放った。

 

 

なに?

 

 

「女がつく普通の仕事ではないかもしれませんが、女に甘えた仕事はしてないつもりです」

 

なんで女がどうとかになるんだ。思わず切り返す。

 

 

 

「sanaちゃん黙って。今度来る事務局長」

上司が制した。

 

 

事務局長?・・・・いきなり初対面で、なんじゃコイツ。

 

 

その人はハッハッハッと高笑いをすると、眼力を緩めた。

 

「ちっこい女のわりに威勢がいいな。これはさぞかし操縦が難しいことだろう、なるほどなるほど」

 

 

上司は慌てて私を事務局長に紹介した。

今度来られる事務局長の武勇伝も話してありますと、それなりのごますりもかねて。

 

 

「そうそう。事務室にあったあのパンフレットの文章は君が書いたと聞いたけれど?」

 

「そうです。書けないからって頼まれて」

 

 

それはつい半月ほど前にお手伝いした病院パンフレットの紹介文だった。

 

 

「そうか。わかった」

 

 

 

 

何?イヤな感じ。

 

 

 

翌日、意味の解らない方向に事態が動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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